
マネージャーにとってのデータ分析とは
データサイエンス業界では、エンジニアよりもマネージャーの方が多い?
大手コンサルティングファームであるMcKinsey & Companyはこちらのレポートの中で、アメリカだけでもデータサイエンティストは14~19万人、マネージャーは150万人不足すると指摘しています。データサイエンスにかかる期待がよくわかる数字となっていますが、疑問なのは、データサイエンティストよりもマネージャーの不足人数がはるかに多いという点です。
マネージャーは複数名のプレイヤーをマネジメントするわけですから、普通に考えればその人数比はマネージャー:プレイヤー=1:10くらいになるはずです。しかしMcKinsey & Companyの予測では、不足人材の数はちょうど逆転しています。
これはなぜでしょうか?データサイエンティストはよほど扱いづらい性格で、10人のマネージャーが指示をしないと働かないのでしょうか?
もちろん、そんなはずはありません。ここで言っているのは、マネージャー≒データサイエンスから高いレベルの意思決定を行う人間のことであり、こうした人間が決定的に不足しているという指摘です。
ビジネスには様々なケースがあり、会社の数だけ個社の事情が存在します。それらをふまえた上で、データから科学的な知見を引き出して正しい意思決定を行うことは、単純にデータを分析することよりも、難しく、責任を背負い込む仕事であり、そうした仕事を担える人材こそ必要であるともいえます。
McKinsey & Companyのレポートでは、「データサイエンスに関わるマネージャーは、データサイエンスの基礎を理解していなければ、その成果を十分に得ることはできない」とも指摘しています。重責を担うべきマネージャーが、データサイエンスの仕組みも知らないでは、正しい意思決定などできるはずもないのです。
データサイエンスの基礎とはなにか?
しかし、マネージャーがチームNo.1のプログラマでなければならないかと言えば、もちろんそうではないでしょう。知っておくべき「基礎」とは、どこからどこまでのことを指すのでしょうか?
データサイエンスは、数学や統計学、コンピュータサイエンスの領域をまたぐ学際的な学問であり、まだ分野として若く、定義も曖昧なところがあります。
そのため、理学部的なアプローチ(理論研究)と工学部的なアプローチ(応用/実験)を混然とさせながら、現在進行形で進歩しています。
マネージャーはまずこうした現状(世界の誰かが考えてくれた真似すべきベストプラクティスはまだなく、自分の頭で目の前の状況をどうにかすべく考えなかければならない、という状況)にある事実を受け止めておく必要があります。
そして、「理論研究に必要なスキル」と「応用/実験に必要なスキル」を仕分け、理論研究に必要なスキルを中心に習得しつつ、応用/実験に必要なスキルも、どんなものか概要は知っているという水準を目指していくべきです。
有名な言葉に、「化学とは試験管について学ぶことではない」というものがあります。化学も理論研究だけでなく、「フラスコを振りつづける」実験に必要な技術というものがあります。化学は、実験における結果が理論を発見し、発見した理論を基に実験を繰り返して成果をだす、というように、理論と実験の螺旋的なサイクルによって発展してきました。
データサイエンスも同様に、数学・統計学のバックグラウンドを中心とした理論研究と、コンピュータサイエンスのバックグラウンドを中心としたデータ処理の実践の両軸があって発展しています。したがって現状、データ処理の実践に疎い人間は理論研究側も弱くなってしまいますし、その逆もしかりです。軸としてどちらに重きを置くかという議論はあれど、片方を完全に手を付けないということはあり得ないのです。
ただし、学ぶべきことを不必要に拡大させる必要もまたないでしょう。冒頭の「化学とは試験管について学ぶことではない」という言葉を思い出せば、データサイエンスのマネージャーが、例えば処理サーバのHWの成り立ちや統計が成り立つための数学的理論まで精緻に学ぶ必要がないことはわかります。時間という限られたリソースを必要なことに振り向けてください。
最後に ―ブルシット・ジョブにならないために―
「化学とは試験管について学ぶことではない」という言葉は、キャッチ―ですし、感覚的にデータサイエンスのスキルを仕分けるに便利な言葉です。
ですがこれを無暗に乱用し、学ぶべきことを拒否するための逃げ道として使ってしまえば、その「マネージャー」の仕事は急激にブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)化してしまうことに注意せねばなりません。
あなたも、以下のようなマネージャーに苦労された経験はないでしょうか?
・技術的な背景がなく、課題克服にアイデアを出せないマネージャー
・ただ納期に向けて圧力をかけるしかできず、頓珍漢な指示や評価をするマネージャー
・プレイヤーとしての自分に拘泥してチームを空中分解させてしまうマネージャー
データサイエンスの仕事はまだ黎明期としても、SIerの仕事に置き換えれば、公平にいって我が国では「書類穴埋め人(体裁を整えるためだけの仕事)」や「タスクマスター(他人に仕事を割り当てるだけで、自分では何もしない/いなくてもチームが回る仕事)」になっているマネージャーは相当数いるように思います。そして、そういうマネージャーは実質的に意味ある仕事をしていないことをごまかすために、「取り巻き(誰かを偉そうに見せるためだけの仕事)」として役員についてまわっていることも多いものです。
※上記の言葉はデヴィッド・グレーバー氏の著書「ブルシット・ジョブ」より
これらはすべて、マネージャーが技術的背景や現場の理解を怠ったがため、せっかくの努力が自らの立場を守るという後ろ向きな方向に向かってしまった結果といえます。
意味があると確信できる仕事を続けたいですね。それでは、また。