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2021年12月13日 キャリア

ドイツ人AIエンジニアが語るAIの将来1/2

日本のビジネスパーソンにとっても、AIという言葉は徐々に浸透し、いまや聞き馴染んだものとなっています。
また、GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)やBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)といった米中の巨大AI企業のサービスを使っている方も多いことでしょう。

一方で、ヨーロッパのAI産業はいまどのような状況にあるのでしょうか。
特にドイツでは、2011年に連邦教育科学省が発したIndustrie4.0の掛け声とともに、製造業のDXに積極的に取り組んできました。2021年のドイツにおけるAIエンジニアのリアルな声は、日本のAIエンジニアのキャリアに参考になることも多いのではないでしょうか。

当団体ではドイツ在住のドイツ人AIエンジニアにインタビューを行い、ドイツにおけるAIの受け止められ方、AIエンジニアのキャリアについて語って頂きました。このコラムは2回に渡ってその様子をお伝えする、前編になります。前編では、ドイツ人AIエンジニアが語るAIの未来像についてを、後編では、ドイツ人の視点から見るAIエンジニアのキャリアについて語って頂きます。


インタビュー協力:マイクさん(仮名)

経歴:ベルリン工科大学にてMechanical EngeneeringのBAを修得後、ネットワークインフラ構築エンジニアとして企業勤務と並行してマネジメントのMAを修得する。その後、ベルリン工科大学に復帰し、人工知能のMAも修得、現在は地図・地形の3Dデータ取得し、AIにて分析する事業を展開中。

ドイツ人AIエンジニアから見る、AIの将来像

---マイクさんは、ベルリン工科大学でMechanical Engeneeringの学士を修得するなど、メカトロニクスのバックグラウンドも持ちつつ、AIとマネジメントの2つの修士をお持ちであり、多様な立場からAIについてご意見をお持ちです。ドイツで暮らすAIエンジニアとして、AIの将来をどのようにとらえていますか?

マイク:
僕は、AIを革命というキーワードと共にとらえているよ。AIは、火、産業革命、インターネット革命に続く4番目の革命といえると思う。

ご存じの通り、インターネットの発達で、僕たちが暮らす環境は大きく変化した。本来であれば時間をかけて経験から学ぶべき知識も、インターネット上に溢れる情報をピックアップしていけば瞬時に自分のものにすることができるようになったんだ。気になるワードは検索をかければすぐに解説が出てくるし、より詳しく知りたければ、専門記事や論文もすぐに出てくる。

それに、世界のどこで起きたことも即時にニュースとして流れてくるし、友人関係といった個人的な出来事でさえ、SNSを通じてすぐに知ることができる。

こうしたインターネットの発達によって得た環境にAIが加わることで、畑違いの人間が専門的かつデータを基にした議論を行えるようになると思う。

ある程度の予備知識は必要としても、例えば、AIエンジニアが農業について、土壌の改良のような専門的分野での議論に積極的に関わっていくことができるようになる。心理学や医学の素人でも、複雑と思われていた人間の行動パターンや感情についてよりシンプルに議論ができる。AI導入によって学問的な境は曖昧になり、物事はよりデジタルに捉えられるようになるかもしれない。

学問における文系と理系といった枠組みも崩れていくだろう。今でも学際分野として両者の中間に立つような学問領域は存在するが、もっとクロスする学問の形態が確立されていくと思う。事象分析や研究は、ベースからコツコツと進めるものは少なくなり、多くのものは既に揃っているビッグデータをどう活かすか、どう理解していくかが重要になっていく。

これまで、ある研究に従事する人間のバックグラウンドは、専門家としてある程度似通ってしまうところもあっただろう。今後はどの学問も研究に参画する人間のバックグラウンドや所属はより多彩なものになっていき、複数の違った視座が関わることで、今まで当然とされてきた定義もくずれていくのではないだろうか。研究者のダイバーシティによって、これまで以上のパラダイム転換があちこちで見られていくだろう。


---なるほど。AIによって専門性の垣根が低くなることで、人間のダイバーシティが生まれ、それが産業のパラダイムシフトを生むとのお考えですね。AIそのもののシンギュラリティについてはいかがでしょうか?

マイク:
AIが人類を越えるかどうかは、これまでも大きく議論されてきたことだ。僕が思うに、機械と人間での大きな違いは、機械は「忘却」を知らないということだ。「忘却」を知らない知能に後退はなく、今後も限りなく貪欲にデータを摂取し発展していくことが予想されるだろう。

考えるべきはAIがシンギュラリティを超えるかではなく、シンギュラリティを超えた時点で「労働」の価値観がどのように変わるかだ。AIがある能力で人間を越えたとき、社会はどう変わっていくのか、人間はどう生きていくべきか、深く考えることが求められてくると思う。このような、大きな変動の核を、僕たちはすでに手にしている。


---たしかに、技術の発展は止めようと思って止まるものでもありません。それほど人間の好奇心は崇高かつ制御しがたいものであると思います。では、AIがシンギュラリティを迎えたとき、社会はどのように変化すると考えますか?

マイク:
2つの方向性が考えられると思う。そしておそらく、この2つは両極端なもので、中庸になることはありえないだろう。1つの方向性は、人間と機械の分業がより高度に行われて人間が真に労働から開放されることで、「やるべきこと」よりも「やりたいこと」が重視されるようになった世界。この世界では、個人の情熱やアイデアが重視された、個性が際立つ世界となるだろう。

一方でもう1つの方向性は、AIによって群衆感情が高度に分析され、全体主義的な効率重視の画一的世界に陥り、個性などは認められない世界となることだ。Nick Bostrom*1はシンギュラリティの先の世界は、画期的に良くなるか、絶望的に悪くなってしまうかのどちらかだとしている。僕もユートピアのディストピアの中間はありえないと考えている。それほど、AIはパワフルなツールということなんだ。

このパワフルなツールは、人間感情を揺さぶり、世論を操作することも不可能ではない。個々の意思を尊重した政治ステムであるはずの民主主義をさえ、根幹から揺るがしかねない力を持っているんだ。

*1 Nick Bostrom:オックスフォード大学教授をつとめる哲学者であり、汎用人工知能と人類についての思索を多数行う。2005年オックスフォード大学のFuture of Humanity Instituteの所長に就任。


---そうですね、私たち自身がAIのパワフルさを理解し、うまく制御できるような知恵を持たなければ、それに振り回されてしまうということかもしれません。では、こうしたAIについて正しく理解し、キャリアを作っていくにはどうしたらよいでしょうか?後編へ続く。

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