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2025年12月18日 キャリア

管理職の昇格要件にAI資格を入れる前に:日本企業の最新動向と目指すべき類型

三菱商事が管理職昇格の要件にAI資格(G検定)取得を組み込む方針を示したことをきっかけに、「自社でも管理職の要件としてAIスキルを明確化すべきか」を検討する企業が増えています。

一方でいざ自社の人事制度として検討を始めると、「こんなことをしているのは三菱商事だけでは?」「他の企業はどういったレベルで人材育成を行っているのか?」などの疑問や指摘が起こり、社内的に中々検討が進まないということもあろうかと思います。

そこで本記事では、2025年に社員のAI人材教育について方針を示した企業発表を振り返り、日本企業のAI人材教育の”現在地”を調査・類型化してみました。どの企業がどんなことをやっているのか、それは自社と比べてどうか、自社の人材育成として何をすべきかの参考として頂ければと思います。(※本記事は 2025年12月時点 の公開情報に基づく整理です)

この記事でわかること

・日本企業で進む「社員のAI教育」は、どんなレベルで進んでいるか。

・日本企業の間にも「差」が生まれ始めている中で、どこを目指すべきか。

・(オマケ)新技術応用推進基盤の資格・法人研修をどう活かせるか。

目次

調査サマリ:日本企業の「社員AI教育」は4つのタイプに分類できる

2025年に公表されてきた各企業の社員へのAI教育動向を整理すると、大きく4つの類型に分類できることがわかります。(下図)

 

類型①:資格ゲート型

このタイプの企業は、管理職や役員の昇格要件として外部資格を明記しています。
制度として分かりやすく、社員としても公平感がある類型になります。一方で組織としてみると、学習支援や学習後の活躍イメージの設計が少ないため、資格取得自体が形骸化しやすいのも特徴です。

 

この類型の代表的な企業例 )
  • 三菱商事
    AIを使いこなす人材を増やして労働生産性を高める狙いから、AI資格の取得を管理職昇格要件に組み込む方針を示しています。まずは2027年度より課長級へ昇格するタイミング(入社8〜10年目ごろ)に、JDLAが運営するAI関連資格「G検定」の取得を義務化することを発表しています。
    社員の学習時間の負担は50時間程度が目安とされ、数年をかけて経営陣や海外出向者も含む単体約5,400人の全社員へ拡大する方向で、人事が取得状況を把握して受験を促す運用にも言及しています。英語(TOEIC)や簿記などの既存要件に続きAI資格を昇格に紐づけるのは、IT企業以外では珍しいと報じられています。

 

  • スズキ
    スズキは投資家向け資料「DX戦略」で、経営層から現場までの「デジタル人財化」をKPIとして明示しています。
    人材面では、2027年までに全役員がAI関連資格(G検定など)を取得し、2030年には役職者の昇格要件の一つとしてAI資格取得を位置づける方針を提示しています。
    あわせて「2030年までに全従業員がデジタル人財になる」ことを掲げ、AIを使いこなして業務効率化を推進すること、デジタル人材プロファイルの設定によるスキル可視化、DX研修(e-learning)の年間6回受講義務化など、学習と行動を仕組み化する計画を示しています。KPIには間接業務生産性の向上(2027年に2024年度比170%、2030年に300%)も並び、資格取得を「手段」として業務成果に接続させる設計がうかがえます。さらに社内データ基盤の月間アクティブユーザー比率を2027年50%、2030年80%へ高める目標も掲げ、利用定着も数値で追う姿勢が特徴です。

 

 

類型②:ブリッジ人材拡充型

高度人材を「技術者と業務担当の橋渡し役」として計画的に増やしていくタイプの企業です。
プロジェクトを牽引するリーダーを育て、ビジネス的にも実行力のある形式です。一方で、高度人材の育成にはそれなりの時間がかかることや、高度人材が活躍できる魅力的な環境がなくば、せっかく時間をかけて育てた人材が育ったと思ったら外部に流出してしまうなどのリスクもあります。

 

この類型の代表的な企業例 )
  • 三菱商事
    三菱商事は、類型①のタイプ(G検定の必須化)だけで終わらせず、より高度な専門性を持つ人材の計画的な育成も掲げています。こちらの記事によれば、2024年度から高度なデータ分析などのスキルを持つ高度人材を育成するため、海外大学への短期留学制度を新設しており、2025年度以降は派遣人数を年10〜20人(2024年度は7人)に増やす方針が紹介されています。
    さらに2030年には、全社員の5〜10%を、データサイエンティストなどの専門人材に近い水準の知識を持ち、他の社員との会話で“橋渡し”ができるレベルの人材にする目標を明記しています。専門家だけに頼らず、事業側にも一定数の“通訳役”がいる状態をつくることで、課題定義・要件整理・リスク論点のすり合わせが速くなり、PoCで止まらない推進体制が作りやすくなります。資格と育成施策を「層」で設計する発想は、AI人材ポートフォリオを考える企業にとって示唆が大きい事例です。

 

 

類型③:共通言語づくり型

ある程度、どんな業界/企業でも共通的な、学びの方法が固まっている基礎知識については外部資格を活用して効率的に学んでいこうとする方式です。まずは基礎資格で共通言語を揃えるという導入は現実的な一方、「これだけ」で何か現実的な変革を期待するのは難しく、次の一手となる施策設計も求められます。

 

この類型の代表的な企業例 )
  • ニトリホールディングス
    トリホールディングスは、AI活用を進める上での「土台」として、全社のITリテラシー底上げにも取り組んでいると報じられています。日経新聞の記事では、2025年に顧客対応を担うコンタクトセンター向けにAI通話解析システムを導入するほか、商品管理などでもAIを活用していることが紹介されていますが、そのうえで、数年以内に全社員の8割が情報処理の国家資格「ITパスポート」を取得することを目指していると記載されています。
    別報道では、対象従業員約1万8,000人のうち80%(約1万4,000人)にITパスポート取得を促し、期限を2025年としている旨も伝えられています。AIの導入・運用と並行して、基礎資格でベースラインを揃える発想は、人事制度設計の選択肢として参照しやすい事例かと思います。

 

 

類型④:活用定着ドライブ型

社員の皆様にある程度専門的なAI学習の為の「環境」を提供し、社員の自発的な学びや変化に期待する方式です。
全社員の基礎力を底上げし、AIを理解している社員を多数派とすることで風土含めた変革も期待できます。一方、全社員に質の高い教育環境を用意するにはそれなりにまとまった金額の投資も求められます。

この類型の代表的な企業例 )
  • クボタ
    クボタは2025年3月、マイクロソフトとの戦略的パートナーシップを強化し、生成AIとコミュニケーションツールを活用したDX推進体制を整える方針を公表しました(契約期間:2025年3月〜2028年2月)。
    主な取り組みの一つとして「Kubota AI Academy」を設立し、海外グループ会社を含む役員・全従業員約52,000人にAI教育プログラムを提供して知識・スキル向上を図るとしています。目的は、AI活用による働き方の変革と業務の生産性向上であり、あわせて研究開発や製造プロセスなどにAzure AIを導入し、データ分析・予測の高度化や知識活用を通じて業務効率化とイノベーションを加速すると明記しています。
    さらに、最新Azure AIの実証・活用を進めて自動運転技術などを含む製品・サービス開発の競争力向上を狙うほか、教育だけでなく、プロセス改革と開発、協働基盤までを同時に設計している点が特徴です。

 

  • サッポロホールディングス
    サッポロホールディングスは、生成AIの「使い方」を全社員に広げるため、外部パートナーと連携した研修と自社ツール導入を同時に進めています。公表情報によると、2025年2月3日からサッポログループ全社員約6,000名を対象に、生成AIに特化したオリジナル研修の提供を開始しています。これは中期経営計画(2023〜26)でDXを経営基盤の重点活動に位置づけ、2022年から「全社員DX人財化」を掲げてきた流れの延長として整理されています。
    さらに、独自の生成AIツール「SAPPORO AI-Stick(通称:サッポロ相棒)」も導入し、業務品質・生産性向上、業務プロセス改善を目指すとされています。研修はe-learning(アセスメント含む)とハンズオンを組み合わせ、生成AIとプロンプトエンジニアリングの基礎に加え、RAGの活用や最新トレンドまで短時間で学べる設計がされており、ツール導入と学習を連動させ、「自発的に使える状態」を作ることに重点が置かれています。

 

  • キリンホールディングス
    キリンホールディングスは、グループ独自の生成AIツール「BuddyAI」を軸に、利用環境の全社展開と部門別最適化を段階的に進めています。2025年5月の発表では、国内従業員約15,000人へ展開を拡大し、「人がやらなくてよい仕事」をAIに代替させて生産性を高め、価値創造に直結する時間を生み出すと説明しており、全体で年間約31万時間の時間創出を見込むとしています。
    取り組みは2024年から「KIRIN BuddyAI Project」として推進されており、2024年11月にはマーケティング部門の従業員約400名に「BuddyAI for Marketing」を先行導入しています。機能改良やユーザー教育が進んだ結果、当初想定(約2万9,000時間)を上回る約3万9,000時間の時間創出効果が得られる見込みとも説明されています。今後は「Select & Fit」構想のもと、部門ニーズに合わせた「BuddyAI for X(Marketing/Sales/R&Dなど)」へ順次機能を追加し、将来的にはタスク分解から実行・レポートまで担うAgentic AIの実現も目指すなど、教育と改善を繰り返しながら活用を深める設計が特徴です。

調査から見える日本企業のAI教育のレベル差

日本企業の社員AI教育の実態を4つの類型に整理しましたが、こういう整理ができるということそのものが、「日本企業の間にも、すでに社員のAI活用の力量に差が出ている」ことを強く示しています。

基礎となる共通言語づくりを急ぐ企業がある一方で、ツールと研修を結び付けて「成果を出す」段階に入った企業があり、まだ少数ではあるものの「ブリッジ人材(橋渡し役)」を計画的に増やして事業とAI専門家をうまくマネジメントしようと取り組み始めた企業もあります。この進捗や目的意識の違いは大きな「差」となっていると思います。

もしかすると読者様の中には、現時点でこの「差」にそこまで危機的なものを感じない方もいらっしゃるかもしれません。
しかしこの差は、今後数年で企業の「AI投資の目利きレベルの差、現場実装のスピード感の差、ガバナンスの強度の差…etc」として積み上がり、取り返しのつかない生産性格差になり得るものです。

自社の取り組みをプロットした時、もしもあなたの企業が類型③共通言語づくり型にいる、あるいは類型③にさえ到達していないという状況であれば、大いに危機感を抱くべきではないかと考えます。

AI教育の最終目標は、類型②ブリッジ人材拡充型のようなプロジェクトをリードできる高度人材の育成です。
部門横断で課題定義・要件整理・技術設計・リスク評価をできる人材を育て、実案件で経験を積ませる。こうしてリーダー(管理職)の遂行力が高まり、結果、PoC止まりやシャドー利用を抑え、AIを継続的に改善していく組織が成り立ちます。

これから社員へのAI教育を設計していくご担当者であれば、KPIを資格取得者数や研修受講者数に置くのではなく、「AI案件を回せる管理職/中核人材を何人つくるか」を数値目標に据えることが肝要です。
ブリッジ人材候補には、座学だけではなく「経験」を積ませることが重要であり、研修によるサポートを行いながら、社内に潜り込んで業務改善に奮闘していただき、評価や配置で報いる仕組みまでセットで設計してみてください。

社員AI教育における新技術応用推進基盤のの活かし方

当団体の運営する「人工知能プロジェクトマネージャー試験」や「AI/DXを用いたビジネス創出&変革研修」は、まさしく類型②ブリッジ人材拡充型や、類型①資格ゲート型の人材育成を得意としています。(下図)

類型①/②は、なかなか適切な教育プランが用意されておらず、また教育プランの提供側にも相応の知見と経験が求められるため、業界でも希少なものと自負しています。

リテラシーではなく、事業とAI専門家をうまくマネジメントするリーダーを育てるにあたり、研修講師という立場ではなくコンサルタントの役割としてブリッジ人材が経験を積むことをサポートし、得られたスキルの可視化も含めサポートできるのは当団体の強みです。

 

社員のAI教育にお悩みのご担当者様がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお問合せください。

一般社団法人 新技術応用推進基盤は、「現場を知る講師」と「実践設計力」、「体系化された試験」といった強みを活かし、貴社のAI人材育成を成果に導くお手伝いをさせていただきます。

※本記事の一部は、生成AIを活用して作成しました。内容は社内で確認・編集を行っていますが、表現や情報に誤りが含まれる場合があります。参考情報としてご利用ください。

PROFILE
一般社団法人 新技術応用推進基盤

編集部

一般社団法人 新技術応用推進基盤では、企業の経営改革、新規事業の立ち上げ、人材育成、人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術の活用などにお役立ていただける情報発信を行っております。
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