2023年のトレンドを読み解く3つのキーワード
2022年も年の瀬を迎え、2023年の足音がせまってきました。
年初に次の時代のトレンドを予測するのは、調査会社や証券会社、コンサルティング会社にとっていわば恒例行事のようなものです。そこで私たちも、2023年のビジネス環境に大きな影響を与えるだろうキーワードを、特にテクノロジートレンドと関連するものについて俯瞰してみたいと思います。
目次
2023年の社会は、どのようなトレンドで動いているだろうか
振り返れば、2022年は”収束せぬコロナパンデミックの中でのウクライナ侵攻”で幕を開けました。そしてこれによる石油資源高騰やGXの再勃興、GAFAMなどIT巨人の過剰投資の限界露呈、静かに進む米中デカップリングなど、様々な変化のあった年でもありました。
また、Withコロナでの生活や働き方が定着し、コロナ以前とも緊急事態宣言時とも異なる、ハイブリット型の生活にて、私たちは日々を過ごしています。
2023年もまた、政治的要素では不確実性の高い年となるでしょう。ウクライナ戦争の決着はいまだ見えず、米国では大統領選挙の前年となることから経済面で大胆な政策をとる可能性が高まります。中国ではゼロコロナ政策の事実上の破綻により、今後の市民生活がどのような形となっていくか見通せません。
2023年の世界経済も、ウクライナ侵攻のような事前予測が難しい変化に直面する可能性を覚悟しなければなりません。ビジネスへの影響という意味では、いつもの年初の恒例行事のような予測を参考に動くのではなく、予測不可能なことを前提に複数のシナリオを持って臨機応変に動けるよう、準備が必要になります。
しかし一方で、2022年に起きた変化を「継承・発展」していくような、比較的見通しやすい潮流も存在していると思います。ここでは、そうした今後も継続発展していく潮流において、2023年にキーワードとなりそうな事項をみていきましょう。
2023年のキーワード①:労働信頼性を高める
まず、私たちの日々の働き方、ビジネスの仕事現場はどのような変化をたどるでしょうか。
ご存じの通り、2020年のパンデミック以降、リモートワークは急速に拡大しました。いまやリモートワークやWEB会議は定着して特別なものでなくなる一方、Twitter社を買収したイーロン・マスク氏の発言に代表されるように、「オフィスに戻れ。モーレツに働け」という、”働き方の揺り戻し”も起きています。どの産業においても、”人々の働き方が変化しつつも正解にはまだ辿り着いていない”状況ですが、逆に言えば、こうした「ハイブリット型の働き方を模索している」時代が2022年という時代だったかと思います。
2023年は、こうした模索中の働き方について、より正解に近づいていく時代となるでしょう。その時にキーワードとなるのが「労働信頼性」です。
そもそも理屈でいえば、100%リモートワークも100%オフィスも、どちらも極論の議論であり、現実にはもっとバランスをとるべきということは、あまり議論の余地もないものに思います。
すでに企業では、リモートでできる仕事はリモートで、集まった方がいい仕事は出社で、というハイブリットな働き方が運用されています。“なにがなんでも全員出社”も”絶対に家で作業”も、どちらも説得力の低い働き方であることは理解できます。
しかし、それでもイーロン・マスク氏のように、オフィスの重要性を訴える経営者がいるのはなぜでしょうか?ハイブリットな働き方に対して、理解と賛同と定着をへていても、どうもモヤモヤしている方も多いのはなぜでしょうか。
これは働き方において「労働信頼性」という問題が解決していないためと考えます。結局のところ、従業員が期待しているほどには、経営者は従業員を信用していません。「ハードに働いているかもしれないし、そうではないかもしれない」従業員に対しては、真実とは無関係に「ハードワークしていない」方に牌を賭けがちになってしまうのが、経営者であり管理職という生き物であると考えた方がいいでしょう。
あるいは、「俺はハードに働いているのに、同僚はサボっているかもしれない。損をするくらいならサボってやろう」という従業員同士の疑心暗鬼や不公平感も、同僚同士の信頼度が低いことを意味していると思います。
理屈としての業務効率や技術的に仕事ができるか否かではなく、「労働信頼性」の問題が解決されていないために、働き方にモヤモヤを抱えている人が少なくないのだと思います。2020年以降、働き方のハード面(制度的・設備的・技術的な面)でのツールは十分進化しましたが、ソフト面(気持ち・感情・評価など)の進歩はいまだ途上であります。2023年は、こうしたソフト面にフォーカスを当てて進歩に挑戦することになると思います。
特にハイブリットな働き方を好む業界(IT、ハイテク、技術系、プロフェッショナルサービスなど)を中心に、従業員と企業(経営者)との関係において、「落としどころ」を探っていくのが2023年になると予想しています。
この「落としどころ」はどのように探っていくでしょうか?
「いまできないことをできるようにする」のはテクノロジーの役割です。労働信頼性の担保は2023年のテクノロジートレンドとなりうる技術だと私たちは考えています。
ただし、これはかつてのように、PCカメラやキーボードストロークで従業員を監視するような極端なやり方では絶対にいけません。相互の信頼を築き、労働信頼性を高めることが目的であるのに、こうした露骨に不信感を表明するようなテクノロジーの使い方はまったく逆の方向性となってしまっています。これでは信頼関係を築こうという前向きな雰囲気は構築できません。
具体的には、「成果管理ではなく感情管理」するHRテックが考えられます。労働信頼性を高めるとはつまり、「みんな頑張っているんだから、俺も頑張ろう」と全員が思って、自主的な努力を継続できる環境を作ることです。
これに必要なことは「あなたの作業を監視していることの可視化」ではなく、「みなが前向きに仕事を楽しんで努力していることの可視化」が必要になります。例えば本企業のように、感情ベースの管理を行うHRテックは1つのテクノロジートレンドとなるでしょう。
2023年のキーワード②:新たな官製ビジネス
次に、仕事のやり方ではなく仕事の中身について、新しく脚光を浴びるものはないのか考えていきましょう。
近年、経済理論だけでは解決できない社会課題は、いっそう顕著になっています。それでも比較的経済がうまくまわっているときはよいですが、社会課題が経済そのものや安全保障に影響をおよぼすとき、官の介入によって、新しいビジネスルールが導入されていくことになります。
当団体の見方では、2020年以降のGX(グリーントランスフォーメーション)への再投資が過熱していたのも、上記の流れの一部であると考えています。
構造上、環境制約なしでは途上国企業が有利になる産業は、川上産業を中心に多数あり、その存在感はいよいよ無視できなくなっています。しかし、ここに環境規制がはいることで、新たに技術競争の余地が生まれ、先進国企業にも再び競争の芽がでてきます。
GXについては、こちらのブログもぜひご参照ください。
2023年は、このような「新たな官製ビジネス」が新事業領域として影響力を増していく可能性が高いと考えています。ロシア産石油の信頼度低下によりGXへの関心はいま少し続くと思われ、ここ10年ほど投資が続いているAIや自動運転分野の研究も、徐々に産業として華開くテーマも増えてくるでしょう。
またわが国では国防費の増強とこれに伴う増税が真剣に議論されており、国防ビジネス(軍備に限らず、ITセキュリティなど含む)も新たな官製ビジネスといえるでしょう。間接的な影響にはなりますが、(増税が実施されたとしても)増えた国防費を賄うために、社会保険系の予算が圧迫されるとしたら、介護福祉事業のいっそうの低コスト化に寄与するAI・IT産業が勢いづくかもしれません。
2023年は、より変化の安定していた過去の年と比べて、上記のような新たな官製ビジネスが勢いづく年になると考えています。
2023年のキーワード③:管理されたインターネット(WEB3.0)
もう1つ、新たな仕事について記載します。
現在のビジネスにおいて、いまやインターネットは必要不可欠なものです。「ノマドワーカー」のように、ネット環境があれば世界中どこでも仕事が成り立つかもしれませんが、東京の一等地にオフィスがあってもネット環境を全停止されては仕事にならないでしょう。
しかし近年、インターネットのブラックボックス性に起因した社会問題も多く登場しています。例えば、無制限に広がる誹謗中傷やプライバシー侵害、デジタルタトゥー、違法コピーに不正アクセスなどがその代表例と言えるでしょう。
2022年の1年間だけでも、インターネット上の誹謗中傷を原因とした悲惨な事件は、もはや枚挙にいとまがありません。2022年10月にはプロバイダ責任制限法が改正されましたが、インターネットの仕組みを疑問視し、その匿名性やブラックボックス性にメスを入れようとする議論がはじまってきたとも言えるでしょう。
もちろん、匿名性やブラックボックス性といったカオスを生む特徴こそ、インターネットを発展させたとも言えますし、そうした自由を好む方も多いと思います。筆者自身もどちらかというと自由に拡大していくインターネットに浪漫を感じていた技術者でありました。
しかしながら、インターネットの構造的なアイデアは1990年以前のものです。30年以上前のアイデアを、2020年代になってもそのまま使おうというのも時代遅れな態度と言わざるをえないでしょう。
2023年は、こうしたインターネットのひずみや課題を解決するために、少しずつWEBそのものが進化を始めていく時代になると考えます。WEB3.0、NFTといった技術は新しいWEB秩序を生み出す可能性を持った技術でありましたが、2022年までは言葉だけが上滑りしている感が否めませんでした。しかし2023年には、利用者が一般にまで拡大するという意味で、テクノロジートレンドといってよいキーワードになるのではないでしょうか。
ビジネスにおいても、コピーによるコスト・リスク負担から解放されるなど、収益源の拡大に寄与してくれるでしょう。自社の流通や商品配布、情報保持の仕組みなどは、ある意味既存のインターネットの存在を前提とした作りとなっていましたが、こうしたサプライチェーンの見直しも必要になってくるかもしれません。
2023年も変化は続く
我が国の社会は、戦後経済復興後の一時期、比較的に安定した成長を実現した時期を経験しました。そのためか、つい、「経済社会は”平常時”は安定していて、たまに不安定な”変化”がくる」という深層心理がある方が多いようにも思います。
しかし実際には、「変化とは連続的で常に起きている」のであり、平常も何もありません。2023年もその基調は変わらず、上記のキーワードを始めとして、様々な事情が変わっていく年になるでしょう。
私たち新技術応用推進基盤は、変化する時代と市場をとらえたマーケット調査、技術調査、そこからの企業としての戦略やPoC構築を得意としており、2023年も変わらずに変化する経済社会によりそってサービスをご提供してまいります。
2023年も、新技術応用推進基盤の活動をどうぞよろしくお願いいたします。