2023年に実行したいリスキング
新年を迎えるにあたり、今年の目標を立てる方も多いと思います。
キャリアアップ、スキルアップを目指して新しく勉強をスタートする方も多いでしょう。最近では、「リスキング」をキーワードに、すでにキャリアを積んでいる方にも新たな学びが推奨されています。
2023年のキャリアアップに向けて、学びの原則を整理しました。
目次
近年推奨されている「リスキング」とは?
リスキングとは、「技術革新や国際情勢など、変化する企業環境に対応するための新しいスキルを学ぶこと」です。Re-Skill(再び-スキル)の言葉通り、すでになにか技能を習得している人でも、再び新しいスキルを習得するという意味になります。
企業の競争環境は、変化のスピードが上がっていくばかりです。特にデジタル技術は変化の速度が速く、さらにこの技術革新に応じる形で業務変革もおきるため、企業活動そのものが変化しやすくなっています。昨今のDX(デジタル・トランスフォーメーション)によって、社員のリスキングの推進は企業経営にとっても無視できない課題となってきたわけです。
(参考)リカレント教育との違い
少し似た概念にリカレント教育というものがあります。リスキングとリカレント教育の違いは学習の「仕方」と「内容」です。まず学び方として、リスキングは企業等に在籍しながら、新たなスキルの習得を目指していきます。一方のリカレント教育は、大学に戻りMBAや修士・博士課程に在籍するなどキャリアが断続的になります。
学ぶ内容ですが、リスキングはあくまで仕事に役立つこと、業務に活きるスキルを習得することが前提です。かつ、内容としても最新技術の扱いなど「新たなもの」が中心になります。一方でリカレント教育は学びの幅が広く、直接業務に活きなくとも教養に活きる学習も対象となっています。そのため、例えば文学や哲学などでも問題ありませんし、内容としても学問として伝統的に成立しているような分野が多い印象です。
これらの違いから、結果的にリスキングは企業やビジネスマン主体の活動、リカレント教育はよりプライベートな取り組みというニュアンスとなっています。
日本人は学習下手? - 現代日本のリスキングの必要性 -
私たち日本人の自己認識としては、「日本人は真面目で勤勉な民族」というイメージがあります。しかし統計的な指標を確認すると、この自己イメージと数値データが必ずしも一致していないということに気がつきます。
「先輩の背中を見て学べ」という伝統的な職人気質からくるものか、日本人は学ぶ姿勢として受け身であり、「自ら学ぶ」ということに関しては決して勤勉ではない姿が浮かび上がってきます。
そもそも勉強していない日本人
パーソル総合研究所が2019年8月に公表した調査では、日本人の自己研鑽にかける労力の少なさが際立っています。「自己成長のために勤務外で行っている学習」に関して、日本人の半数近く(46.3%)は「特に何もしていない」と回答しています。
これは、調査対象の東・東南アジア・オセアニア諸国14か国の中でも異常な値であり、比較的出世意欲の高い東南アジア諸国では数%しかない値です。
日本同様、すでに一定の経済発展をとげているオーストラリア(21.5%)やニュージーランド(22.1%)と比べても、日本人の「何もしていない人」の割合は倍以上であり、日本人が異常なほど「勉強しない人」であることが浮き彫りになっています。
企業の人材投資は欧米の1/10~1/20以下
2022年9月の経済産業省資料では、GDP比の人材投資額が国際比較されています。2010-2014年の平均をみると、我が国のGDP比人材投資額は約0.1%です。1~2%超が平均の欧米諸国と比べ、その額は1/10~1/20以下です。
個人的な感覚では、職人的徒弟制度の文化を持つ日本企業は「OJTで"学ばせてやっている"」という意識が強いためか、OJT以上の人材育成投資を嫌う傾向があるように思います。従来はそれでもまわっていたのかもしれませんが、そもそもOJTが機能するのは、企業内に十分なノウハウが蓄積していることが前提です。環境変化が激しく、企業も先輩も初めての仕事を行わなければならない時、新人や後輩の立場からするとOJTが機能しているとは言えないでしょう。
OJTも機能していない、Off-JTの投資も桁違いに少ないでは、人が育つことを期待するのは難しいでしょう。
コロナ禍でも自己啓発の意欲は上がってこない
リクルートワークス研究所が2022年6月に公開した「Works Index 2021」では、仕事に関する学びの機会がコロナ禍によって大きく下落し、そのまま回復していないことを示しています。
また、日本オラクル株式会社がAI@Work2022として発表した資料及び慶應義塾大学の岩本隆氏が公表した資料によれば、コロナ禍では世界の多くの企業で労働時間が増えている中で、日本と韓国のみ労働時間が減っています。
冷静に考えれば、大きな経済的ショックを受けているわけですからよりハードに働かなくてはならないはずです。実際、世界ではそうなっている傾向がみえますが、日本は逆を行っています。もともと職場以外で勉強する習慣がない日本人が、職場で学ぶ時間まで少なくなってしまっては、日本は人材競争力を維持できるでしょうか?
こうした統計データを確認すると、「社員は自ら学ばない」、「企業は社員の学びに投資しない」という日本社会の姿が浮き彫りになってきます。これは「日本人は勤勉」という私たちの自己認識とは大きく異なるものです。
このような状況が続けば人材の劣化は免れようはなく、国際的な企業競争は非常に厳しさを増していきます。社員1人1人の生き残りという文脈でも、海外から労働市場に参入してくる高スキル人材と早晩戦えなくなっていくのではないでしょうか。
個人としても社会としても、今の暮らしを守るためには、リスキングは実施しなければならないものといえるでしょう。
リスキングで何を学ぶべきか
ここまでお話したリスキングの必要性と定義から考えれば、「新たな変化に対応している×仕事でつかう」スキルを学ぶという結論になってきます。2023年という時代、これはどのようなものになると考えられるでしょうか。
まず、自分に必要なスキルを知ろう
前提として、仕事に使うスキルは人によって異なりますし、できること/できないことも人によって異なります。新たな変化も企業や業界によって異なるでしょう。
そのような中で自分に必要なことを知るためには、まずあなたの周辺にいる「仕事ができる人」をよく観察することを勧めます。仕事ができる人は何をしているのか、自分がそれをしようとしたら何がネックとなるのか、冷静に観察してみましょう。
リスキングというと、すぐ表面的なハードスキル(語学やプログラミングなど)を思い浮かべがちですが、それだけがすべてではありません。ロジカルシンキングのようなより奥深いスキルや、コーチングやアンガーマネジメントのような心の内面的なスキルの方が、「できる人」には求められている場合が多いように思います。
まず自分には何が足りないのか、何を学ぶべきなのか、己を知ることがリスキングでも重要なのです。
あえて2023年ならではのスキルを考える
上記を前提としたうえで、あえて一般的に2023年に重要視されそうなスキルを考えてみます。新しい変化に対応するスキル、つまり2023年にはどのような変化があるでしょうか。
新しいマネジメントスキルの獲得
ハイブリットな働き方が一般化していくに従い、従来型のマネジメントは通用しない場面も増えています。特にテレワークのマネジメントは不得手な管理職が多いでしょう。
実際、前述のオラクル社の調査でも多くの国でテレワークによって労働生産性が上がっているにもかかわらず、日本と韓国のみ労働生産性が低下しています。
デジタルスキルへの苦手意識は日本企業に根強いですが、いつまでもそうは言えません。マネジメントスキルの再習得は労働生産性や働きやすさを考えるうえでとても重要になります。
クリティカルシンキングの習得
いまや現場で手取り足取り指導してもらえる時代ではありません。上司も先輩も、誰もやったことがないことにも試行錯誤しながら挑戦していかなければなりません。
すでにあるマニュアル通りに仕事をするのではなく、自ら仕事を作り、こなしていくことがいっそう求められてきます。クリティカルシンキングやロジカルシンキングを高いレベルで実践できる人材は、多く求められていくでしょう。
また、DXの文脈においても、まだないものを設計し、実現していくにはクリティカルシンキングの力が非常に重要になります。
従来のハードスキルの発展的な習得
語学、プログラミング、会計といった、従来から言われるハードスキルも決して不必要になったわけではなく、むしろこれらを高いレベルで使いこなせるスキルの習得が求められます。
これらのハードスキルは定型的な習得手法(教科書や学校)が整備されてきており、過去に比べ、常識の水準が上がっています。ただ単に「できる」だけでは、2023年の時代においては希少性は低く、より高いレベルで使いこなしている人材になることがリスキングでは期待されているでしょう。
すなわち、例えば、「単に英語が話せるだけではなく、ビジネス的に失礼がない表現と言い回しで英語が話せる」、「Pythonが書けるだけでなく、各ライブラリの意味を理解して選択/使いこなせる」、「帳簿の意味が分かるだけでなく、そこから経営的な課題を読み取れる」といった具合です。
2023年のリスキング計画を立てるにあたり、参考にして頂ければ幸いです。
なお当団体の人工知能プロジェクトマネージャー試験は、上記のような「使いこなし」に早くから焦点をあてており、AIを活用できる人材のための資格試験となっています。
2023年も、新技術応用推進基盤の活動をどうぞよろしくお願いいたします。
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編集部
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