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2026年08月27日 キャリア

AIによる生産性向上が進まないのはなぜ?製造業に必要な人材像と育成方法

「AIツールを導入したものの、期待したほど生産性が上がらない」と感じていないでしょうか。製造業の現場では、汎用的なAIツールを導入しても、研究開発や製造工程が抱える固有の課題に合わず、期待した効果が得られないことがあります。

AIを導入するだけで生産性が上がるほど、問題は単純ではありません。本記事では、製造業でAI活用が成果につながらない原因を整理したうえで、技術部門や経営層に求められる人材像と、その育成方法を解説します。

目次

なぜ、AIで生産性を向上できる製造業は少ないのか

長年にわたり改善を重ねてきた製造業ほど、既存の設備改善や業務の見直しだけでは解決しにくい課題を抱えているものです。これまでさんざん、さまざまな改善策を試してきたものの、いまだ解決できない課題があなたの企業にも残っていないでしょうか。
AIは、従来の方法では解決が難しかったこのような課題に対して、新たな選択肢となり得ます。

一方で、AIを現場の課題解決や生産性向上に本当の意味で結びつけられているメーカーは限られています。 その背景の1つには、研究開発や製造の現場が抱える課題と、AIの導入を検討する技術部門や経営層の認識が十分に共有されていないことがあるでしょう。

生産性向上などの具体的な成果を得るためには、「①解決すべき課題を特定し、②目標と優先順位を決めたうえで、③適切な手段を選ぶ」必要があります。少なくとも今のところ、AIは「③適切な手段を選ぶ」際の「有力な選択肢の一つ」であり、①や②の前裁き、あるいは③で最終的な手段を選択する決断は人間が行う必要があります。しかし時にAIを導入すること自体が目的となり、解決すべき課題の整理が後回しになるケースもあります。

 

AIを生産性向上へ結びつけるには、現場の課題を把握し、事業全体への影響を評価したうえで、AIを含む複数の選択肢から解決策を選べる人材が必要です。

しかし、現場を理解する力と事業全体を見渡す力は、組織内で別々の人材や部門に分かれていることが少なくありません。 研究開発や製造の現場は課題を把握していても、事業全体における優先度を判断できず、経営層へ共有しにくいことがあります。 一方、技術部門の責任者や経営層は、相談を受ければ解決策を検討できますが、研究開発や製造の現場に潜む課題を自ら把握することは容易ではありません。

 

現場の理解と事業全体の視点を併せ持つ人材は少なく、たとえ研究開発や製造の現場にいたとしても、意思決定の権限を持っているとは限りません。 その結果、多くの製造業では、AIを導入しても現場の課題解決や生産性向上につながらない状況が生じます。

製造業の生産性向上にAIを活かせる人材とは

製造業でAIを生産性向上に活かせる人材となるためには、「現場と事業全体を理解する力」「問題解決のプロセスを設計する力」「AIやITを評価するための技術的な理解」の三つが必要です。 それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。

 

現場の課題と事業全体への影響を捉える

研究開発や製造の現場で、「重要な課題が経営層へ十分に伝わらない」と感じることはないでしょうか。 AIを生産性向上につなげるには、現場で起きている問題を把握するだけでは不十分です。その課題が事業全体へ与える影響や優先度を判断し、適切な解決手段を検討する必要があります。

しかし、多くの製造業では、現場の課題を把握する役割と、事業全体の優先度を判断する役割が別々の部門や人材に分かれています。

立場                                       

持っているもの

見立てにくい・届きにくいところ

現場に立つ人

具体的な課題の肌感覚

事業全体における課題の優先度と、適切な解決手段の判断

全体を見る立場の人

解決手段の判断の引き出し

現場の実態や潜在的な課題の把握

 

外部の専門家へ相談しても、現場固有の課題が十分に共有されず、期待した成果につながらなかった経験はないでしょうか。 必要なのは、現場の具体的な課題と、事業全体の方向性の両面を把握した上で判断する力です。研究開発、製造、経営、AIなど、複数の領域を横断して課題を捉える総合力が求められます。

 

課題の優先順位と解決プロセスを設計する

現場から複数の課題が挙がり、どれから着手すべきか判断に迷う場面もあるでしょう。

複数の課題が見つかった場合は、事業への影響や緊急性を踏まえて、着手する順番と達成すべき目標を決める必要があります

たとえば、研究開発期間の短縮、原材料の使用量削減、品質の安定化など、目標によって選ぶべき手段は異なります。 どの課題を優先し、何を目標とするかは、事業方針や現場の状況を理解する人が判断しなければなりません。

目標を決めた後は、次のような選択肢を、効果、費用、実現可能性などの観点から比較します。

  • 使用する原材料や仕入れ先を見直す
  • 人員を増やす
  • 設備を更新する
  • 業務プロセスを見直す
  • AIを活用する

 

AIは強力な選択肢ですが、こうして並べてみればあくまで数ある手段の一つにすぎません。
ここで避けたいのが、目的と手段のはき違え、つまりAI導入それ自体を目的にしてしまうことです。

目的と手段の混同は、AIがビジネス現場に利用され始めた2010年代から頻繁に起こっていましたが、AIの活用が広がった現代でもなお起こり得ることです。特に生成AIが広く注目され始めた時期には、技術への期待が先行し、解決すべき課題が整理されないまま導入が進むケースが再び多く見られたと感じています。経営層が示す導入目的と、研究開発や製造の現場が抱える課題が共有されなければ、期待した成果を得られない可能性があります。

 

AIやITシステムが課題解決に適しているか判断する

「この課題にはAIを使うべきか、別の方法を選ぶべきか」と判断に迷う場面も少なくありません。求められるのは、必ずしも自らプログラムを開発する技能ではありません。課題の性質を踏まえ、AIが適しているか、既存システム改変や業務改善など別の方法が適しているかを判断する力です。

課題と目標を整理できても、AIやITの特性を理解していなければ、適切な解決手段を比較できません。たとえば、研究データや技術文献の収集に時間がかかっている場合、いまやAIの活用は当然の選択肢になりますが、それがそもそも検討の選択肢に入っていなければ、調査対象を減らしたり人員を増やしたりといった対応に偏る可能性があります。

また技術的な理解があれば、自社固有の課題に対して、既存ツールの活用・外部サービスの導入・システムの内製などどの方針が適しているのか比較もできます。すべての担当者がエンジニアレベルの知識を習得する必要はありません。しかし、AIの適否を判断し、必要に応じてデータサイエンティストやシステム開発部門と連携できる基礎知識は必要です。

なぜ製造業ではAI活用を担う人材が育ちにくいのか

現場と事業を理解する力、問題解決を設計する力、AIやITを評価する力を、一人の人材が身につけるのは容易ではありません。 背景には、通常のキャリアでは経営視点や問題解決の経験を積みにくいことと、配置転換やOJTだけでは必要な知識を横断的に学びにくいことがあります。

 

通常のキャリアでは経営視点と問題解決の経験を積みにくい

研究開発や技術部門で経験を重ねても、事業全体の優先順位を判断し、自ら改善策を選んで結果に責任を持つ機会は、限られることがあります。

多くの組織では、担当者が改善案を出しても、投資や人員配置を含む最終判断は管理職や経営層が担います。担当者が課題を把握していても、予算や人員を伴う施策の決定権を持っているとは限りません。 そのため、課題の選定から施策の実行、結果の検証までを一貫して担う経験を得にくい場合があります。

さらに、安定した事業では、既存の業務を正確に運用することが優先され、そもそも改善へ取り組む機会が限られる場合もあります。品質や安全性が重視される製造業では、大幅な変更そのものがリスクになる場面もあるからです。

その結果、現場で専門性を高めても、事業全体の視点で課題を選び、解決まで主導する経験を十分に得られない人もいます。また、権限や担当範囲が決められた縦割りの組織では、部門をまたぐ課題解決を任される機会も限られることがあります。こうした機会なしで本の知識を学ぶだけでは、複数の選択肢からの判断力や、その結果を検証する実践力までは身につきにくいでしょう。

通常の業務経験だけで三つの力を身につけるのが難しい場合は、部門横断のプロジェクトや体系的な演習を通じて、意図的に経験を補う必要があります。

 

ローテーションやOJTだけでは必要な力を補いにくい

「AI部門の人材を研究開発の現場へ配置すれば、双方を理解できるのではないか」と考える企業もあるでしょう。しかし、配置を変えるだけでは、現場知識とAIの専門知識を短期間で両立することは困難です。配置後の教育や専門部門からの支援が不足すると、次のような課題が生じる可能性があります。

配置のしかた

生じやすい壁

AI部門の人材を研究開発・製造部門へ配置

現場固有の業務や判断基準の習得に時間がかかり、AIの専門業務から離れることで知識を更新しにくくなる

研究開発・製造部門の人材をAI部門へ配置

統計、データ分析、AIシステムなどの基礎知識を学ぶ必要があり、専門業務へ対応するまでに時間がかかる

ローテーションやOJTを活用する場合も、配置前後の学習内容、実践課題、専門家の支援、評価方法まで設計する必要があります。必要な人材を育成できなければ、自社固有の課題に対して、既存ツールの活用、外部サービスの導入、システムの内製を適切に比較することも難しくなります。

AI活用を担う人材は体系的に育成する

通常の業務やローテーションだけで必要な力を補いにくい場合は、学ぶ内容と実践機会を計画し、組織として人材を育成する必要があります。具体的には、現場の課題を見つける力、解決手段を比較する力、AIやITを評価する基礎知識を、実践と組み合わせて学ぶことが重要です。

 

課題を発見し、解決手段を比較する判断軸を学ぶ

AI研修を検討する際、ツールの操作方法から学ばせようとしていないでしょうか。ツールの操作方法だけを学んでも、現場で解決すべき課題や、AIを使うべき場面は判断できません。課題の発見、優先順位の設定、目標設計、手段比較には、それぞれ判断の枠組みがあります。

育成内容は、次の二つに分けて設計すると整理しやすくなります。

学習領域

主な学習内容

課題発見・問題解決

問題発見の手順、目標設計の考え方、手段比較の枠組み

AI・データ活用の基礎知識

統計・データ分析の基礎、AIの適用可能性を判断する方法、生成AIを業務で活用する方法

課題発見から目標設計、手段比較までを順序立てて学ぶことで、現場で生じる課題を整理し、優先順位を判断しやすくなります。あわせて、AIやデータ活用に関する基礎知識の習得も必要です。更に、課題に対してAIの適否を判断するためには、プログラミングだけでなく、統計やデータ分析の基礎も役立ちます。

AIの適否を判断し、必要に応じて専門人材と連携できる基礎知識を持った人材が社内にいることで、既存ツールの活用、外部への委託、内製などを比較しやすくなります。これらの知識と判断力は、講義だけでなく、自社の課題を扱う演習や実践を通じて定着させる必要があるでしょう。

 

研修と実践課題を組み合わせて定着させる

「社内研修やOJTを実施しているものの、実際の課題解決へ結びつかない」と感じていないでしょうか。配置転換だけでは学習内容が個人の経験に左右されやすく、外部の専門家へ課題解決を任せるだけでは、知識が社内に残らない場合があります。

社内の知識や実践機会が不足している場合は、法人研修やアドバイザリーサービスを育成施策の一部として活用できます。研修では、課題発見、目標設計、手段比較の考え方と、AIやデータ活用の基礎知識を段階的に学ぶことが可能です。さらに、自社の課題を題材にした演習を組み合わせることで、実務で判断する力を養いやすくなります。

新技術応用推進基盤では、製造業の研究開発・技術部門やマネージャー層を対象に、技術と事業の双方を理解し、AIを業務へ活用できる人材の育成を支援する法人研修・アドバイザリーサービスを提供しています。

自社の課題に合った育成方法を検討している場合は、法人研修・アドバイザリーサービスの内容をご確認ください。

まとめ

AIツールを導入しても、研究開発や製造の現場が抱える課題に合っていなければ、期待する生産性向上にはつながりません。必要なのは、現場の課題を把握し、事業への影響や優先度を判断したうえで、AIを含む複数の解決手段を比較できる人材です。

こうした力は、配置転換やOJTだけで身につけるのが難しい場合があります。課題発見や手段比較の判断力と、AIやデータ活用の基礎知識を、実践と組み合わせて学ぶことが重要です。

PROFILE
一般社団法人 新技術応用推進基盤

編集部

一般社団法人 新技術応用推進基盤では、企業の経営改革、新規事業の立ち上げ、人材育成、人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術の活用などにお役立ていただける情報発信を行っております。
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