技術マーケティングで技術が売れ続ける仕組みはどう作ればいいのか
技術マーケティングという言葉を聞いたとき、多くの方が思い浮かべるのは「市場のニーズを汲み取って技術を開発せよ」という発破号令ではないでしょうか。近年はニーズ起点で技術を開発すべきだという論調が強かったため、技術マーケティングといえばニーズ起点の研究開発活動として語られる場面が増えています。
しかし技術マーケティングという言葉を素直に読み解けば、それは「技術が/技術で、売れ続ける仕組みを作ること」と広く捉える方が自然です。シーズ起点かニーズ起点かという起点の議論は、数ある技術マーケティングに関する議論の1つに過ぎないのです。
むしろ、技術マーケティングの本領はシーズ起点のプロダクトを売る仕組みづくりにあるのではないかと考えます。この立場から、シーズ起点を再評価する理由、実行するために必要な見方、そしてその見方を支える情報の扱い方を、順に見ていきましょう。研究所や技術部門で自分たちの技術をどう売るかに悩む方々に向けて、実務的な視点をお届けします。
目次
シーズ起点を再評価する理由

実は、成功確率はシーズ起点の方が高いのではないか
シーズ起点=プロダクトアウトのR&Dは古い発想だと敬遠されがちですが、新規事業の成功確率という観点では、現場の体感としてシーズ起点の方が高くなる傾向にあるのではないでしょうか。理由を二つの構造に分けて見ていきましょう。
一つ目は時間軸の問題です。ニーズ起点では、「技術開発にかかる時間+事業開発にかかる時間」分を見越した未来のニーズを予測することになります。しかしこれを正確に当てるのは難しく、開発期間中に他社が先んじてそのニーズを取ってしまう可能性も否めません。
技術開発が成功する確率、ニーズが本物であり続ける確率、他社より先行できる確率、(サプライチェーンの構築や営業、知財などの)事業開発が成功する確率、この4つの掛け算をすることになるので、最終的な成功率はどうしても大きく下がってしまいます。
二つ目は、ニーズの本気度の判断が難しい問題です。あったらいいな、という程度のニーズと、お金を払ってでも欲しい、というニーズはまったく別物だと考えます。
もちろん事業として成立するのは後者であり、ニーズ起点というからには後者のニーズを基にR&Dを進めなければなりませんが、顧客がどちらのニーズを話しているのか判別するのはとても難しい。まして技術開発もこれからという段階で顧客が話していることが本物のニーズに昇華するかを見極めるのは、半分ギャンブルの世界に足を突っ込む作業になってしまう場合もあると思います。
顧客に寄り添ったニーズ起点の開発ならば成功確率はそれなりに高くなるのかと思いきや、現実にはそう簡単な話でもありません。
実際、日本能率協会が2024年に公表した調査では、製造業の約7割が新規事業開発に力を入れているものの、事業目標を「目標以上」に達成できた企業はわずか2%にとどまっています。これは全体としていかに新規事業を成功させるのが難しいかを示す数字ですが、これだけニーズ起点で考えるべきという主張が浸透した中でのこの数値は、ただ顧客ニーズを考えていれば成果が出るほど簡単な話ではないということを感じさせてくれます。
ニーズ起点にはニーズ起点の良さがあるとしても、シーズ起点にも優位性を活かした新規事業開発の動きがありうるのではないでしょうか。
本稿では、あえてシーズ起点を再評価する余地について考えてみます。
シーズ起点のR&Dが持つ優位点
顧客接点の近さ
シーズ起点なのに顧客が近いとは、ある種皮肉な話ですが、現実にありうることと思います。シーズ起点のR&Dではすでにある技術を活かす市場を探す行動になるため、顧客にすぐデモや試作品を提供できます。今まさに困っている顧客にミートしやすく、共同研究や量産検討という形で顧客を巻き込んで進められることも珍しくないでしょう。
もちろん、ニーズ起点のように最初から顧客接点を意識しているわけではないので、新規の顧客接点を創出できるかはギャンブル性が生まれます。
また「そもそもどこの誰に持っていても、いかんともしがたい」といった技術開発では、どうしようもないわけですが、そういったどうしようもない状況に陥る可能性はニーズ起点のR&Dよりも高くなるかもしれません。
ですが、大枠としてある程度「見えている」ニーズの範疇になる話であれば、むしろプロダクトアウト発想の方が開発がはかどるということもありえるでしょう。
資金面のメリット
ニーズ起点で新規事業に取り組む場合、必然的に「数年~10年先のリリースを目指して開発を進め、完成したら大きく世に出す」というビッグバンリリース型になりがちです。当然ながら製品をリリースするまでは売上はゼロですから、言い換えれば数年の技術開発期間を支える資金的な体力があることが前提になっています。
途中で分社化して資金調達を図るという手もありますが、その後の事業における支配性を考えれば、大企業の新規事業としては座組には難しさを伴います。やはり、ある程度は思い切って投資できる体力がないとそもそも構造的に動かしにくい仕組みではないでしょうか。
一方、シーズ起点はすでにある技術を応用する活動なので、相対的に開発期間や資金は小さくて済む傾向があるように感じます。アジャイル型に小さく試作することもでき、既存顧客に当たるものを探していくアプローチもとりえるでしょう。
「いいところまできたが、予算的な難しさもあって研究を閉じた。でもその後、似たようなアプローチを継続した競合が事業として成功させた」というのは、R&Dの当事者として忸怩たる思いを抱えます。資金面のリスクが比較的低いのもシーズ起点の優位性として考える羅れます。
組織体制の現実
もう一つ無視できないのが組織体制の現実です。中央研究所が自ら技術戦略を立てて動ける体制であればいいものの、事業部主導の流れの中にある1つの技術検討部門という位置づけである場合、独力で将来の市場ニーズを把握して研究開発を進めるのは難しくなります。力関係として、事業部からの依頼に応える受け身の研究になりやすい立場です。
こうした組織体制がある中では、1人の現場担当としてニーズ起点のR&Dを志向しても、なかなか難しいものがあります。
もしあなたが事業部からの依頼に追われがちな立場なら、市場分析力や未来構想力を磨くよりも、シーズ起点で技術を売っていく力を磨くことは、組織の中で生きる社会人として意味があるのではないでしょうか。
シーズ起点のR&Dで成果を上げるには

シーズ起点を再評価する理由が分かったところで、では実際に何をすればいいのでしょうか。ここで核になるのが、同じ技術を多面的に見る力と、それを売り方として設計する力です。見方を変えて市場を見つけるところから売り方を組み立てるところまでがセットになって、ようやく技術マーケティング戦略の輪郭が見えてきます。
同じ技術でも、見方を変えれば市場が変わる
シーズ起点の技術マーケティングで核になるのが、同じ技術を多面的に見る力です。技術者は自分が苦労して発露させた特徴を売りにしたいと考えがちですが、その一面に固執すると対象とする市場を限定してしまうことになりかねません。
たとえば、ものすごく硬いという特徴を売りたい新素材があったとしましょう。技術者は硬さそのものを売り込みたいと考えますが、よく見れば、硬さに伴って重いという別の特徴があったり、傷つきにくいという側面につながったりします。あるいは製造にあたって安い材料でいいとか、環境に配慮した材料で作れるなどもあるかもしれません。1つの特徴/特性に固執することなく、とにかく「この子の特徴はどこにあるだろう」と愛をもって探してみることです。
またその際は弱点と思われる特徴もきちんとリストアップします。例えば、ある部品に比重が大きいという弱点に思える特徴があったとしても、これを逆手にとって、その部品をはめ込むことで製品全体の重さのバランスをとるような用途があれば、それは一転して強みに変わります。
どこが見どころになるかわからないものです。特長ではなく特徴、強みではなく違いを探しましょう。
同じ技術でも、どの側面に光を当てて売り込むかで、ミートする市場はまったく違ってきます。当初想定した市場に当たらなくても、見方を切り替えれば別の市場が見えてくるのではないでしょうか。良い面と悪い面、強みと弱みを多面的に捉えてマーケットに当てていく作業が、シーズ起点の技術マーケティングの最初の1歩だと考えます。
売り方を含めて設計する
見方の切り替えで市場を見つけたとしても、売り方を間違えれば技術は売れ続けません。技術マーケティング戦略のもう一つの軸が、売り方を設計する力です。
同じ技術でも、ライセンスとして外部に供与するのか、自社製品として売るのか、材料として供給するのか、選択肢は複数あります。さらに、売り切りで終わらせる発想を一度脇に置き、技術顧問料のようなサブスク形式など、技術を提供し続けることで継続的に対価を得る形も視野に入れる場合もあるでしょう。技術のレベル感や顧客の状況によって、最適なビジネスモデルは変わってきます。
また売り方を考えれば、自社が取れる選択肢もわかってきます。たとえば自社で量産まで担うのが難しく、ライセンス供与でロイヤルティ収入を得るというモデルしかとりえない場合、それはつまりロイヤルティ収入程度の金額で回収できる投資で実現できるかどうかでGo or No-goを判断するということです。
見方の切り替えで市場を見つける段階と、その市場に合った売り方を設計する段階が、技術マーケティングの実務として一続きになると考えます。
市場の見方/売り方の設計力を磨くための情報の扱い方

ここまで見てきた見方や売り方の設計を支えているのが、情報です。多面的な見方を持つには情報の質と量、適切な扱いが前提になりますし、売り方の設計も情報なしには成立しません。情報は集めればいいわけではなく、性質ごとに分けて扱う必要があります。順に見ていきましょう。
情報には三つの種類がある
付帯情報を多角的に集めるには、まず情報を性質ごとに分けて考える必要があります。新技術応用推進基盤では、情報は大きく分けて「集める情報」「作る情報」「推論する情報」の三種類がある、と整理しています。
集める情報とは、すでにどこかに存在している情報のことです。公開された市場調査結果、有価証券報告書、決算報告書、業界統計などです。
作る情報とは、自分たちの手で生み出す情報です。アンケートを設計して取る、競合の製品を分解して調べる、実験して結果を得る、といった活動を通じて得られます。
推論する情報とは、誰も答えを持っていない、あるいは情報が公開されていない領域について、論理を立てて組み立てる情報です。競合が次にどう動くか、未来の市場がどうなるか、といった情報がここに入ります。
この三分類を頭に置いてみると、自分たちが何に偏り、何が抜けているのかが、おのずと浮かび上がってくるのではないでしょうか。
作る情報と推論する情報の方が価値が高い
三分類のうち、技術開発の現場で抜け落ちやすいのが、作る情報と推論する情報です。集める情報には手をつけても、その先の作る情報や推論する情報が薄くなる傾向にあります。
ところが、独自性のあるインサイトを生み出すのは、集める情報よりも、作る情報と推論する情報の方です。誰でもアクセスできる「集める情報」から得られる気づきは、競合も同じ範囲に到達できてしまいます。自分たちで作った情報や、自分たちで推論した情報こそが、自社にしか見えない技術の価値を見つける手がかりではないでしょうか。
ただ、作る情報と推論する情報は難易度が高いのも確かです。アンケートの設計、実験の組み立て、競合や未来の論理的な推論、いずれにも一定の訓練が要ります。
情報が集まらないから分析できない、という言い回しは、つい口にしてしまいがちですが、その裏側には、作る情報と推論する情報を扱う難しさが隠れているのではないでしょうか。
情報を扱う力を体系的に磨く
では、これらの情報を扱えるようになるには、どうすればいいでしょうか。
ここで一つ考えたいのが、「多くの新規事業担当者が、競合や顧客の有価証券報告書すらまともに読んでいない」という筆者の体感です。
有価証券報告書も決算報告書も、数字を眺めるだけでは何も生まれませんが、しっかりと情報の推論が出来れば、「ニュースで取り上げられたあのプロジェクトが実は赤字なのではないか」、「これに取り組んでいるということは、この工法はOKになったな」、「たぶん、この製品を買うためにこの観点で評価するんだな」といった示唆が浮かび上がるものです。
いまや情報を集めるだけであれば、AIの方がはるかに速く、優秀な時代になりました。しかし、集めた情報から示唆を推論できるレベルまで読み解く作業は、いまはまだ人の視点とオリジナリティに期待したくなります。作る情報や推論する情報を適切に得るには、まだ人による作業と体系的な学びと訓練が必要でしょう。
シーズ起点で技術を売っていく力は、組織として高めていくべき重要な力であり、属人的なセンスに任せてしまっていいものではないでしょう。少なくとも新規事業を担当する者には、体系的に学ぶ場が必要と思います。
新技術応用推進基盤では、モノづくり業界の研究所や技術部門の方を対象に、技術マーケティングの基礎を扱う法人研修とアドバイザリーサービスを提供しています。情報を扱う力を高めることはもちろん、シーズ起点で技術を売っていく力を体系的に身につける場として、活用していただきたいと考えます。
まとめ
技術マーケティングは、「技術が/技術で、売れ続ける仕組みを作る活動」です。ニーズ起点で開発するか、シーズ起点で技術の活かし場を探すか、どちらの場面でもこの視点は変わりません。
近年はニーズ起点が偏重されがちですが、成功確率や資金体力、組織体制の現実を踏まえると、シーズ起点もまた現実的な選択肢になります。同じ技術を多面的に見る力、売り方を設計する力、それを支える情報の扱い方、いずれも個人の感覚に頼るものではなく、組織として鍛えていく能力ではないでしょうか。