ビジネスモデルを図解して何を見るべき?分析の本質とは
ビジネスモデルを分析する場面では、ビジネスモデルキャンバスをはじめとしてさまざまな図解の枠組みが用いられます。これは新規事業を構想する場面でも、既存事業の現況を分析する場面でも、よく使われる手法です。
しかしとりあえず図解をしてみたはいいものの、結局のところ何が見えてきたのか曖昧なまま作業を終えてしまった、という経験はありませんか? 事業企画や経営企画の現場でも、こうした実感を抱いている方は少なくないのではないでしょうか。
そこで本記事では、ビジネスモデル図解の目的を「儲けの主体を明らかにすること」だと捉え直し、そのうえで主体を見抜くための実践プロセスと、自社分析・競合分析それぞれに必要な姿勢を、章を追って整理していきます。
目次
ビジネスモデル図解で明らかにすべき「儲けの主体」とは

本章では、ビジネスモデル図解の核がどこにあるのかを掘り下げてみましょう。図解の目的は、ステークホルダーや取引の構造を可視化することだけではありません。その可視化によって儲けの主体がどこにあるのかを浮かび上がらせ、その主体が持つ優位性の頑健さや安定性・リスクを確認して打ち手を考えるところまでが、図解が果たすべき役割だと言えるでしょう。
儲けの主体を見抜くことが図解の核
先ほど、ビジネスモデル図解の目的は、構造の可視化そのものだけではなく、儲けの主体がどこにあるかを浮かび上がらせることにあると申し上げました。
たとえば、B2B産業を例に図解を考えてみます。ある化学メーカーが素材部品を電機電子メーカーへ供給するという商流があるとしましょう。このとき、化学メーカーと電機電子メーカーの間に「受注」と「納品」という矢印を引けば関係性の構造はわかります。しかしこれだけでは儲けの主体は見えてきません。その顧客が数百社のうちの1社なのか、自社の売上を支える超大口顧客なのかによっても話は変わりますし、何の製品を販売しているのかによっても話は変わります。
ビジネスモデルを図解するならば、これらの要素も加味して、自社の主たる儲けの構造を可視化しなければなりません。要素を並べる作業と、儲けの主体を浮かび上がらせる作業は別の取り組みなのです。
主体の安定性・成長性・リスクを問う
また、図解が果たすべき役割は、儲けの主体を特定して終わりではありません。その主たる儲けは中長期にわたって続くのか、伴うリスクは何かあるのかまで掘り下げて、初めて図解は戦略判断の材料として機能します。
たとえば、ある事業の儲けの主体が特定の1社からの評価に依存しているなら、取引条件の交渉で足元を見られる場面が増え、その1社の業績悪化が連鎖倒産につながる危険もはらみます。また、儲けの主体が営業担当者個人への信頼に支えられているなら、担当者が退社すれば事業は崩れてしまうかもしれません。儲けの主体が補助金にあるのなら、一つの制度改正でビジネスの前提が崩れることもあるでしょう。実際、中小企業庁の2024年版中小企業白書でも、特定取引先への依存度が高い企業ほど価格転嫁が進みにくく、収益が圧迫される構造が示されています。
リスクの特定が重要なのは、それが次の戦略判断につながるからです。数年後に儲けの主体が失われる兆しが見えるのならば、いま手を打つという選択肢を持つことができます。競合の主体が脆いと判明したなら、戦いを挑む、相手が崩れるのを待つ、別の打ち手を取るといった分岐が視野に入ってくるはずです。
儲けの主体の脆さを直視すると、ともすると現状の自社事業を否定する言葉が並ぶこともあるかもしれませんが、話の本筋は否定ではなく、そうしたリスクを持つ事業構造であることを正しく理解し、次の打ち手を考える作業を行うことにあります。
儲けの主体を明らかにする実践プロセスとは

では、ここからは儲けの主体を浮かび上がらせるための図解実践プロセスを整理してみましょう。自社の既存ビジネスの図解を例にとって、、いくつかのポイントについて順を追って見ていきましょう。
数字と理由を両方入れる
実践の出発点として、関係性を示す線/⇔に「数字」と「理由」を付記してみましょう。
自社とつながっている線に対しては、社内に蓄積された情報がありますので、数字と理由の両方を図解に記入できると思います。当たり前に感じるかもしれませんが、つい取引の矢印を引いただけで満足してしまい、その矢印に流れている金額や、その矢印の金額があることで自社の売上の何%に影響があるのかまで書き込まないというケースは意外と多いものです。矢印にいくら流れているか、誰からどのくらいの内訳で売上が立っているか、こうした情報を書き込まないまま関係性の矢印があるだけでは、実態はよくわかりません。
儲けの主体を特定するためには、どの顧客から、どの金額の売上が立っているのかという数字を、まず押さえる必要があります。中小企業庁の2024年版中小企業白書でも、商品・サービス別の原価把握や顧客ターゲットの明確化を実施している事業者ほど、売上・利益が伸びている傾向が示されています。
そして数字に加えて欠かせないのが、「なぜその顧客は、その金額を自社へ発注したのか」という受発注の理由です。例えばある大口発注について、ニッチな技術への需要が背景にあるのなら、儲けの主体はその技術ということになります。あるいはその理由が営業における担当者同士の信頼感であるなら、儲けの主体は営業力もしくはその担当者個人になります。資本関係の動きを背景に発注が入っているのなら、主体は資本関係です。同じ大口発注1社という見え方であっても、理由が違えば儲けの主体はまったく別物と考えたほうがいいでしょう。
数字と理由が両方そろって、はじめて主体は浮かび上がります。数字だけでも理由だけでも分析は難しくなってしまいます。
競合分析のときは推測が必要になる
自社につながる関係性の分析は社内情報で進められますが、競合など他社につながる関係性の分析をする場面では、必要な情報の多くが手に入りません。全体の売上は決算公告などで把握できることもありますが、詳細な内訳まで公開されることはまずないでしょう。
こういう競合の分析をするときに陥りやすいのが、「情報が足りないから分析できない」という思考停止です。しかし世の中に、オープンな情報だけで必要十分な分析ができる状況など、そもそも多くありません。学校で解いた問題集とは違い、「回答のために必要な情報が質問文の中にすべてそろっている」ことなど、ビジネスの現場ではあり得ないのです。
それでも分析を諦めるわけにはいきません。そのため情報は不足する前提で、必要な推測/推定を交えながら書き上げる作業が求められます。推測の手がかりは、競合のプレスリリースに記載された取引先や案件規模、業界メディアでの言及、公開された統計情報などです。これらを組み合わせて、競合の儲けの主体について論理的に推測を組み立てていきます。
ここで押さえておきたいのは、推測とは根拠なく当てずっぽうで書くことではないという点です。、入手可能な情報から考えた際に、きちんと論理が立つこと、その論理に基づいて結論を組み立てる作業が求められます。
推測の質を担保するのは、ロジカルシンキングなどのビジネスにおける基礎能力です。どれだけ情報源を集めても、組み立てる側の論理的思考力がなければ、推測もそのぶん浅いものに留まってしまうでしょう。
推測の検証ができることにも価値がある
書き上げた推測は、当たることもあれば、外れることもあります。重要なのは、外れたときに何が起きたかを検証できる推測であることです。推測の組み立て自体が間違っていたのか、それとも推測の時点では筋が通っていたが、競合がその後に対応を取って結果が変わったのか。原因が切り分けられれば、次の推測の精度は上がっていきます。
推測は、根拠を持って組み立てることで初めて検証できるものになります。組み立てる作業そのものにも、検証して次に活かす作業にも、それぞれ価値があります。組織として推測と検証を続けていけるかどうかが、競合分析の質の向上には欠かせません。
儲けの主体を見抜く目をどう養うか

ここまで、儲けの主体を特定する視点と、自社・競合それぞれの実践プロセスを見てきました。最後に、こうした分析の目を組織として育てていくために、何が必要かを整理しましょう。
分析の実践を繰り返し、論理の精度を上げる
儲けの主体を見抜く目は、二つの取り組みの繰り返しによって育っていきます。一つは、推測の実践・検証プロセスに繰り返し取り組むことです。数字と理由を入れ、安定性とリスクを問い、情報がない中で推測を立て、外れたら検証する。この循環を続けることで、何を見るべきかという感覚が身についていきます。
もう一つは、論理を組み立てる力を鍛えることです。断片的な情報から主体を推測する作業も、推測を検証する作業も、すべて論理の組み立てが必要な作業です。論理の精度が低ければ、推測も検証も浅い結論にしか到達しません。
ただし、これらを自社内だけで繰り返すには難しさがつきまといます。自社の事業を自社の論理だけで分析していると、業界の常識と過去の経験に縛られ、視野や問いかけが狭くなりがちです。
慣習的にやり続けていて疑問が浮かばなくなったり、部分最適に視点が集中して全体が見えなくなったりと、こうした構造は人が集まる組織であるかぎり避けては通れません。
外部の視座と体系的な学びが必要になる
組織として分析の目を養うために必要な要素は、二つあります。
一つは、ロジカルシンキングのような基礎能力の学び直しです。儲けの主体の推測と検証は、いずれも論理の組み立てを要します。この基礎能力は社会人経験の中で一定程度は養われていくものではありますが、だからといって業務の中で自然と完全に身につくというものでもなく、自己流のまま不十分になってしまっている場面が少なくありません。正しい推測や検証をするためには、学び直す機会を設けることも検討する必要があります。
もう一つは、外部の視座を取り込む機会です。他業界のビジネスモデルを構造として理解する場、業界横断で議論する場、自社の分析を外部の目で評価される場、これらが組み合わさることで、自社内だけでは生まれない問いが立ち上がります。Mueller-Saegebrecht の研究では、ビジネスモデル革新を巡る意思決定で、グループシンクをはじめとする集団バイアスが構造的に避けがたいことが示されています。判断の質を担保するには、外部の視点を取り込む仕組みが鍵を握ると言えます。
新技術応用推進基盤では、モノづくり業界の事業企画・経営企画に関わる方を対象に、ビジネスモデル分析の実践とロジカルシンキングの基礎を組み合わせた法人研修・アドバイザリーサービスを提供しています。図解の手法を教える研修ではなく、図解を通じて何を見るかを磨く実践の場、と位置づけてご活用いただけます。化学・素材、自動車、電機電子、通信など、ビジネス企画に高度な技術理解や設備投資が必要になる業界を、特に得意としています。
まとめ
ビジネスモデル図解の目的は、構造の可視化ではなく、儲けの主体を明らかにすることにあります。自社では数字と理由を入れて主体を浮かび上がらせ、その安定性とリスクまで問うていく。競合では情報の不足を前提に推測を組み立て、外れたら検証する。
こうした推測の実践・検証サイクルと論理の精度を、組織として育てていけるかどうかが問われています。