2024年のAIトレンドーAI業界の動きを予想―
2023年は生成系AIの活用元年と言えるほど、多くの話題が生まれました。
2024年のAI業界はどのような動きを見せるでしょうか。2024年のAIトレンドを考えてみましょう。
目次
生成系AIの伝統的AI開発工程との合流
2023年は、Chat-GPTやGemini、Llama2、Mixtralまで様々な生成系AI(LLM)が登場し、多くの企業で調査や実験的な取り組みが実施されました。
実際、ガートナー社の調査によれば、生成系AIの試験をしている企業の割合は2023年3-4月に15%だったのに対し、9月の調査では45%へと急激に拡大しています。また、10%の企業は本番環境で生成系AIを運用しているとも回答しており、かつてのPoC貧乏の時代とも異なる投資規模に至る可能性を示唆していると思います。
一方で、わかってきたこともあります。
それは、「GPTモデルは総じてコスパがいいが、それ単品ではイマイチ使い道が限られる」ということです。学習済みモデルだけでも品質の高い文章を作ることはできますが、品質の良い回答までは作ることはできません。業界用語や専門知識はもちろんのこと、より一般的な常識であっても、GPTモデルをそのまま使えば誤答してしまうことは既に知れ渡っています。
結局のところどのGPTモデルもそのまま使うことはできず、APIを通して追加学習を行わなければ実用レベルの回答を作ってはくれません。つまり、質の良いデータをそろえて、質の高い調整を行うというAI開発の基本はGPTモデルでも変わらないということです。
2024年の段階で「学習済みモデルだけを使って、プロンプトエンジニアリングで実用レベルのものが作れる」とするのはやや楽観的にすぎると思われ、AI開発者にとって、GPTモデルは例えばTensorFlowやScikit-learnと同じような立ち位置のものへと受け止められていくでしょう。
とりわけスタートアップにとっては、より具体的なアプリケーションに開発の中心は移っていくと思われます。GPTストアのようなものが立ち上がることでAIベンダーにとってはマネタイズがしやすくなり、各社の実装を手助けしていくことになるでしょう。
実際、いま乱立しているオープンソースLLMの競争は、かつてのディープラーニングブームの競争を思い出させます。
2010年代にはTensorFlow、Keras、Chainer、PyTorch、MXNetなどオープンソースのディープラーニング・フレームワークが乱立しましたが、実装の経験を通して、その使い勝手や動作速度などを理由に収束していった歴史があります。例えばChainerはPyTorchに合流し、KerasはTensorFlowやMXNetの上部での動作になっていきました。
オープンソースLLMも、2023年の調査フェーズを終え、2024年は実装フェーズに入っていくことになると思います。このことは乱立するLLMの使い勝手や動作速度などが検証されていくことを意味しており、2025年以降の勝ち組LLMをきめる前哨戦となるでしょう。
2024年は生成系AIが伝統的なAI開発の工程に組み込まれ、その中でソフトウェアエンジニアリングとしてどれが優れるか検証される時期となるのではないでしょうか。
生成系AIの為の環境整備
前項でも少しふれましたが、「生成系AIがしたり顔で返してくる誤答」は実用においても大きな課題です。また、基本部分でどんな学習をしているか不明な構造上、知らず知らずのうちに著作権侵害をおかしてしまうことも否定できないリスクです。
しかしこれは現状では構造的な問題に近く、技術レベルでこのリスクをゼロに保証するのは困難です。そのため、2024年の実装フェーズにおいては技術以外の面での工夫が期待されるところです。
まず、すでにMicrosoft、Adobe、Googleは自社の生成AIを使った顧客が著作権侵害で訴えられた場合、それを補償する方針を発表していることを、日経クロステックが報じています。このような補償の有無は、どのLLMを使用するかの選択にも影響するでしょう。
また、The Wall Street Journalの記事では、AI保険やサイバーセキュリティ保険の需要は一層高まっていくとの見解を紹介しています。
保険業界は自業界の生成系AI活用も活発です。この経験は誤答リスクがどの程度のものか試算するにも役立つ経験であり、少しずつAIユーザー向けの損害保険も整備されていくでしょう。2024年は、生成系AIを安心して使用するための環境整備が進むものと思われます。
Nano AIの実験と新しい端末の挑戦
もう1つ、重要なものにAIモデルの小型化があるでしょう。
12月に発表されたGeminiには、nanoと呼ばれる組み込み型AIのバージョンがあります。端末内で処理を完結できるほど容量が小さく、通信も不要なAIは、処理速度の向上とともに新たな使い道を提示してくれます。
例えば、カメラを向けて写っている画像をリアルタイムで美しく処理するには、いちいち通信をしていては間に合いません。まずはGoogleのPixelシリーズでの利用となると思いますが、スマホ以外でも新たなデバイスが登場しだしています。
元Appleの従業員が立ち上げたベンチャー企業Humane(ヒューメイン)は、AI Pinという独自のデバイスを発表しています。Humaneは3月時点ですでに約2億4,100万ドルを調達しており、Open AIとの協業も発表している注目ベンチャーです。彼らが発表したAI Pinはスマホにつぐ次世代のデバイスとして挑戦的な設計をしており、699ドルという価格も現実的な普及が期待できる水準でしょう。
過去にスマートウォッチやスマートグラスが定着しきれなかったことを考えると、このAI Pinがどこまでユーザーに浸透するかは未知数ですが、組み込み型AIモデルがこうした新たなデバイスの設計に影響を与えることは確かだと思います。2024年は組み込み型AIによる新たなアプリやデバイスの登場も期待されます。
おわりに
2024年も、AI業界には投資が継続されていくと考えています。
生成系AIが伝統的なAI開発工程に合流することでアプリ開発で「できること」も拡大し、保険等の環境が整備していくことで導入の不安を軽減する方法が考えられていくでしょう。
またnano AIにも引っ張られる形で、ポスト・スマートフォン端末の新提案も楽しみになってきますね。
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