「フレームワークを埋めるだけ」の事業戦略が失敗する原因と対策
事業戦略を立てる、あるいは見直す立場にあるなら、SWOT分析、3C、PESTELといったフレームワークを学び、実際に使った経験があるはずです。一方で、フレームワークを使って分析と戦略立案を行っても、どうも確信が持てないという感覚を抱く人は少なくありません。
あるいは、フレームワークを埋めて分析資料は完成したものの、そこから戦略の方向を判断する材料を得られずに困り、いつも目新しいフレームワークばかり探し続けている担当者の方も多いかもしれません。しかしなにか新しいフレームワークさえ学べば、分析は確信に辿り着けるのでしょうか?
はたして問題が本当にフレームワークの側にあるのか、改めて問い直す必要があります。
本記事では、フレームワークを埋めるだけで終わる分析や戦略策定が失敗する原因を整理し、そこから事業戦略に効く示唆を引き出す具体的な使い方と、その力を組織として育てる方向を示します。
目次
事業戦略を立てるとき、フレームワークだけでは答えに辿り着けない

事業戦略を立てる場面で、とりあえずSWOT分析や3Cといったフレームワークを埋めてみたものの、一向に方向性が見えなかった経験は少なくないのではありませんか?また、ついつい新しいフレームワークを学べば分析の質も上がるのではと期待して、流行りのビジネス書を読み漁ったりしていないでしょうか。しかし、フレームワークはあくまで道具です。本当に重要なのはそこから引き出される示唆をどう読み取るかという担当者のスキルになります。
新しいフレームワークを学んでも、事業戦略の質は上がらない
「あなたの提案する事業戦略には納得感がない」 - 上司から分析の甘さを指摘されると、担当者の中にはもっと適したフレームワークはないかと新しい手法を探し始める方がいます。事業戦略のフレームワークを紹介する本や記事を読み漁るのがその典型例ですが、その行動の前に問い直すべきは、「そもそも自分はよく知られているフレームワークを本当に使いこなせているのか?」です。
SWOT分析や3C、PESTELといった手法の名前は、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。したがって、これらのフレームに目新しさはないと思います。しかし目新しさがないとしても、ではこのフレームワークがなぜ/何の目的で生まれ・どうやって使っていくべきなのか、仕事としてどう用いられることを想定されて作られているのか、きちんと学んで実際に活用した経験がある方は、どれくらいいるのでしょうか。実は、なんとなく聞いたことがあるだけ、仕事でもなんとなく情報を埋めるのに使っただけという方が、大半を占めるのではないかと思います。
王道のフレームワークには、王道たる所以があり、正しく使いこなせば有用なものです。実際問題として、同じフレームワークを使って情報を整理しても、示唆を引き出せる人と引き出せない人がいます。この事実はすなわち、問題は手法の選び方ではなく、使い方であり、担当者の分析力やクリエイティビティといったスキル差なのだと示しています。
この事実から目をそらして新しいフレームワークを探し続けても、分析やそこから生まれる戦略の質が上がることはありません。まずは、王道のフレームワークの使い方をしっかりと理解する必要があります。
フレームワークは道具であり、重要なのは出てくる示唆
フレームワークとは、情報を整理するための「型」です。前提として、「型」自体が戦略の方向を教えてくれるわけではないことを理解する必要があります。
情報とは分析のために集めたデータであり、断片です。それらをわかりやすく整理するための「型」がフレームワークです。一方、示唆とは、フレームワークに整理された情報を見渡し、統合的に考えたとき「だから自社はこう動くべきだ」と読み解ける方向性のことを指します。事業戦略を導くのは、整理した結果として浮かび上がる「示唆」のほうです。
なお、そもそも事業戦略の立案は次の流れで進みます。
- 目的設定
- 調査
- フレームワークによる情報整理
- 示唆の獲得
- 戦略化
整理は途中の通過点にすぎませんし、上記のステップのどれを飛ばしても「良い戦略」を描くことは難しくなるでしょう。しかしなぜか、フレームワークに情報を埋めるだけで満足し、記入し終えたシートを成果と誤解してしまうケースが後を絶ちません。またフレームワークはただの整理過程ですから、逆に言うと示唆が浮かび上がらないようなフレームワークへの情報の書き方では、現状を理解できているとは言えず、事業戦略の判断材料にもなりません。
フレームワークに情報を描ききった後に何を判断したいのか、示唆を引き出すまでを考慮しながら、フレームワークによる情報整理も行う必要があります。
事業戦略に重要な示唆を引き出すフレームワークの使い方

では、フレームワークから示唆を引き出すには、どのような書き方が望ましいのでしょうか?次は事業戦略立案のために重要な、フレームワークの使い方について解説します。
自社のどの判断のために、このフレームワークを使うのか
フレームワークからうまく示唆を引き出したいなら、いきなりフレームワークに情報を入れてはいけません。何を分析するのかを考える前に、何の判断をするのかを明確にしてから情報整理を始めましょう。
例えばSWOT分析を使う場合でも、次に挙げるようにさまざまな目的があります。
- 現状を経営層と共有したい
- 新規事業の方向を決めたい
- 既存事業につて競合に対する勝ち筋を見つけたい…etc
判断したい内容が異なれば、強み・弱み・機会・脅威それぞれの正眼に書くべき情報の粒度も、深さも、視点も変わってきます。フレームワークとは情報の整理手段、可視化の手段だと説明してきましたが、それは裏を返すと「自社の何を可視化したいのか」によって可視化の方策も変わるということになります。
目的や問いがあいまいなままいきなり情報を埋め始めると、完成したシートは方向性を失った情報の羅列となり、事業戦略の判断材料にはなりません。
粒度を揃え、段階的に深掘りしながら事業の構造を見える化する
まず目的を定めたら、次に中身を埋めていきます。
このときの典型的な失敗例の一つが、書く言葉の「粒度」をバラバラにして記載しまうことです。例えばSWOT分析であれば、自社の強みに「技術が強い」と書き、脅威に「20XX年にXX規制が始まり、当社の主力商品XXの主要原料であるXXの利用にはペナルティがかかる」と書いたとします。
どちらも記載している内容自体は間違いではないとしても、両者の記載粒度が違いすぎて、では何が言えるのかはよくわかりません。
例えば強みに記載した「技術が強い」の解像度をもう少しあげ、「独自の原料代替技術がある」とか、「ペナルティを払っても他原料を使用するより安く仕上げる製造技術がある」といった記載であれば、言えることの方向性も少しは見えそうです。強み・弱み・機会・脅威に記載してる情報の粒度がそろっていないと、情報の統合や比較もできないため、分析や示唆だしそのものができないのです。
ここでコツになるのは、「SWOT分析を一枚で完結させない」ということです。
いきなり解像度の高い情報を描くことは難しいのでまず粗い粒度で一度書き上げ、そこから大まかな方向性を見てみます。それから見えてきた方向性も意識しながら、もう一段細かい情報粒度でSWOTフレームに情報を入れなおします。こうして段階的な深掘りを繰り返すと、情報の構造が層を成して見えてきます。
重み付けと目線の掛け算で、戦略の方向を読み解く
粒度を揃えて深掘りの次に必要なのが、情報への「重み付け」と「目線の掛け算」です。SWOT分析を例にとれば、「強み」に技術力や顧客基盤といった異なる要素が並んだとして、すべて同列に扱えるものではありません。それでは、「どれも重要だね」と意味のない結論で終わってしまいます。そこで必要なのが、各情報は「(現状の可視化とか競合への勝ち筋発見といった)目的」に対してどのくらい重視すべきものなのか、重みづけをおこなうことです。
重み付けには軸が必要で、観点をずらして議論してしまっては判断が一貫しません。売上を伸ばす観点なのか、顧客との信頼を厚くする観点なのかなど、目的に対し、どの軸で重み付けするかを先に決めておく必要があります。
情報粒度がそろい、重みづけもできたら、はじめて4象限全体を見渡し、強みと機会で何が言えるか、弱みと脅威で何を避けるべきかと、複数の象限を掛け合わせた方向性を見始めることができます。
このとき大切なこととして、埋め終えたフレームワークのシートを成果物として扱わないことがあります。実際のところ、フレームワークシートを埋めるだけでもそれなりに大変なので、心情としてこれも見てほしいという気持ちになります。その気持ちはわかりますが、シートはあくまで分析の途中で発生した途中経過資料にすぎません。本当の成果物は、シートから得た示唆を相手に伝わる形に研ぎ澄ましたメッセージです。シートを「埋めるだけ」では成果物に至らず、読み解いて伝えるところまでやり切って初めて、フレームワークは事業戦略を立てる成果に結びつくということを忘れないようにしましょう。
事業戦略を立てる力を、組織として育てる考え方とは

示唆を引き出すフレームワークの使い方は、一人の担当者の経験則だけで身につくものではありません。個人の力量任せにせず、組織として育てていくための考え方について解説します。
基本のフレームワークを、事業戦略に使えるレベルで習得する
さて、ここまで本記事をお読みいただいた方の中には、「自分は目的設定、粒度を揃えること、段階的な深掘り、重み付け、そして目線の掛け算を最後まで徹底できていただろうか」と、自分のフレームワークの使い方を振り返っていただいた方もいるかと思います。
もしあなたがやり切れていなかったと感じたなら、第一に取り組むべきはSWOT分析、3C、PESTEL、ファイブフォース分析といった基本のフレームワークについて、「知っているふり」をすることを改め、事業戦略に使えるレベルで使いこなせるよう、もう一度理解し直すことです。
それぞれのフレームワークの狙い、特性、使い分けを理解した状態へと進歩するための一歩を踏み出すだけでも、事業戦略を立てる力は大きく変わってきます。基本を深く理解することこそが、示唆を引き出す土台になります。
自社の業界と市場を、戦略を立てられる解像度で理解する
ところで、「情報粒度を揃えて記載しよう」と考えたとしても、どこかで手が止まってしまったという経験はないでしょうか。強みをもっと具体的に書こう、機会の中身をさらに掘ろうと思っても、言葉が出てこない。これは厳しい言い方をすると、担当者自身の自社や市場についての理解が浅いことを示しています。なんとなくわかったつもりになっていたことを言語化する事は難しく、いざ文章に書こうとして初めて、自分の理解の解像度が思っていたほど高くなかったと気づくことはあるあるだと思います。
顧客のことも、市場のことも、業界のトレンドも、自分は本当に知っていたのだろうかと反問する姿勢は、社会人として成長するための重要な一歩であると思います。
なお、解像度の高い情報とは、業界の規模や成長率といった数字だけを指すものではありません。判断材料になるのは、次のような踏み込んだ理解です。
- どの業界の、どの部門で、どんな課題に直面している誰なのか
- なぜその市場が自社の事業として成立するのか
- 顧客は何を基準に選ぶのか
もし「解像度の高い情報を自分では書けない」と気づいた方がいたなら、これから意識的に業界を学び直し、市場と技術を観察し、高いアンテナを維持する努力を続けましょう。
示唆を導く視座とロジカルシンキングを、体系的に鍛える
さて、基本のフレームワークを使いこなし、業界と市場理解の解像度を高めても、整理した情報から事業戦略の方向を読み解く力には、さらに別の鍛錬が要ります。それが、次の2つの力です。
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必要な要素 |
内容 |
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視座の高低を変えて観察する力 |
フレームワークから一歩引き、情報の組み合わせから何が言えるかを見渡す。目線が高くなければ方向性を見失うが、低くなければ細部までは見通せない。高低を行き来しながら示唆を考える力 |
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ロジカルシンキング |
整理した情報を束ね、対比し、因果でつないで示唆を生み出す論理の動かし方 |
この2つが弱いと、せっかく高い解像度で深掘りした情報をそろえても、示唆が浮かびあがってきません。
私たち新技術応用推進基盤では、基本のフレームワークの習得、業界・市場の理解、視座とロジカルシンキングの鍛錬と3つの方向に対応する法人研修を提供しています。とりわけ製造業など、技術開発や技術導入を伴う事業開発を得意としていることが特徴です。
事業戦略を立てる力を組織として育てる選択肢の一つに加えていただければと思います。
まとめ
「フレームワークは埋めたが、結局、何が言いたいのかよくわからない」という分析をしてしまう事業企画チームの失敗は、フレームワークの選び方に原因があるのではなく、使い方にこそ原因があります。なにか新しいフレームワークはないのか血眼になって検索する前に、王道のフレームワークを使いこなせているのか、知ったつもりになっていないかを問い直す必要があります。
そして、整理したフレームワークから示唆を引き出すには、埋め始める前に目的を言語化し、粒度を揃えて段階的に深掘りし、重み付けと目線の掛け算で読み解くといった基本をしっかりこなすことが欠かせません。示唆の質を支えるのは、基本のフレームワークの理解と、そこに埋める情報の解像度をしっかり高くできるかという担当者の業界/市場理解度、そして最終的に整理した良き情報から示唆を引き出す視座の高低とロジカルシンキング力です。
新しい手法を探し続けるより、この足腰を組織として育てることこそが、事業戦略を立てる力の本質だといえます。
※ 本記事は、当団体理事の見解/私見および当団体の調査内容を基に作成しております。