なぜ人工知能プロジェクトではプロマネの腕が問われるのか?
プロマネの実力がPJの成否をわける
リーダーの実力がチームの実力を決めるのは、どんな仕事でも同じことです。
部下の能力を引き出し、正しい目標に向けて情熱をもって邁進できるかはリーダーの器量にかかっています。
人工知能系のプロジェクトでもそれは同様ですが、より顕著にリーダーの特性がチームに影響を与えやすいと思います。どういうことか見ていきましょう。
プロマネの役割と責任
プロジェクトマネージャーの役割とは、モノづくりの最終品質責任者であり、 イノベーションを生み出す主体 であり、チームを守る最後の盾であることです。そしてこの役割を果たそうとするとき、従来のITシステム構築法と人工知能構築法の違いが、プロマネの責任をも変えてきていると思います。
従来のITシステム構築のような、「ウォーターフォール×PDCAサイクル型」の開発はAI構築ではあまり適していません。人工知能の「やってみなければわからない」特性が、緻密な計画作りの意義を薄くし、計画と実行の境をより曖昧にしたからです。結果、よく状況を観察しながらより速い速度で検討をおこなう、「PoC×OODAサイクル型」の開発が多くなっているように思います。
この「PoC×OODAサイクル型」開発では、プロジェクトの全編を通してカイゼンを求められます。より少ないデータで、より汎化で、より高い精度を求めることに終わりはありません。つまり、ある程度のところで「あとはこの仕様通りに作ればOK」と切り替えることができないのです。
「仕様通りに作ればOK」まで話が進むと、一般にプロジェクトは楽になります。ある意味、もう頭を使わずに手だけ動かせばよいからです。
(裏を返せば、それゆえに多くのプロマネ / エンジニアが仕様を変えることを嫌います。一部の仕様を変えると、その影響調査も含めてまた頭を使わなければならないからです。)
ウォーターフォール×PDCA型開発では、一般に最初の数カ月に集中して頭を使い、次の1年-2年くらいは淡々と手を動かしつつ、部下の労務管理をするというケースが多いでしょう。つまりプロマネの役割はプロジェクトのほとんどの期間で「チームを守る盾」であることが中心でなり、イノベーション力や品質担保責任という役割はプロジェクトの最初と最後にちょこっと、ということになります。
しかしPoC×OODA型開発ではこうはいきません。前記の通り、むしろイノベーション力や品質責任を中心に求められます。メンバーやクライアントが精度向上に詰まったとき、広い視点から新たなアイデアを提供することを期待されます。また、社会や競合企業の動静をふまえ、ビジネスインパクトを出すための適切な納期までに適切な品質のAIを作り上げることが期待されるのです。
プロマネの役割と責任そのものに変化がなくとも、求められることの比重はこれまでと全く逆になると考えた方がいいでしょう。
リーダーはスキルとセンスを鍛えよ
人工知能構築型のプロジェクトのリーダーに求められるのは、つまりこういうことでした。
「納期」は守る。「精度」も上げる。
両方やらなくっちゃいけないってのが、プロマネの辛いところだな。
覚悟はいいか?俺はできてる。
(荒木飛呂彦先生、失礼しました)
ではこうしたリーダーになるには、どのように実力を磨けばよいのでしょうか。「技術的な知識」だけを磨けば、いずれどうにかなるのでしょうか。
私はそうは思いません。ビジネスインパクトを残すための責任者としては、 技術的なもの以外にも幅広な視点での知識≒スキルを身につけることが必須です。私たちが人工知能プロジェクトマネージャー資格の合格要件としているように、なにが問題で、どうやって実現するのかを示せるリアリストである必要があると思います。
加えて、プロマネは「センス」を身につける必要があると考えます。センスとはいいかえれば、「場の状況や目的に合わせて、視点や視座を調整できること」です。
会議をしていても「言ってることは間違ってないんだけど、なにかピントがズレてるなあ」という人がいますが、こういう人は「いま何が重要なことで議論すべきなのか」ということを理解していない人が多いです。いま何を議論すべきかわかっていないから、議論することもないのに会議を開いたりもして、「まったくもってセンスのないマネージャーだなあ」と部下に思われることも多いでしょう。
「センス」というと、まるで生まれ持った才能のように感じますが、実はこれは訓練して初めて身に付く類のものです。
世の中にはたしかに才能はあるでしょう。例えばモーツァルトは5歳から作曲していたそそうですし、素晴らしい音楽を作ることに経験は重要ではないのかもしれません。しかし5歳の子供は、たとえ素晴らしい人工知能のソースコードを書くことはありえても、人工知能構築のプロマネをすることはありえないでしょう。
視点や視座の高さとは、ある狭い範囲の知見から出てくるものではなく、全体感を俯瞰したときに出てくるものです。そのため例えば業界の暗黙の了解や人間関係といった、システムそのものとは無関係なことを含めてビジネス全体を理解していることが必要になってきます。この「幅広く知っている」状態になるには単純に学ぶための時間が必要であり、こうした人生を通した学びのことを人は経験と呼びます。プロマネのセンスやバランス感覚は、たゆまぬ努力と経験によってのみ身に付くものと思います。(私たちの人工知能プロジェクトマネージャー試験も可能な限りこの経験の力を判定するようにしています)
努力でなんとかなるのであれば、人の意思が乗り越えられる程度の壁ということです。『黄金の精神を持つリーダー』もかつて言っていたように、きっと両方やるのはわけないことなのでしょう。きちんとした教育を受け、リーダーとしての『覚悟』を持ちさえすれば。
チームの実力はリーダーの実力と心得よ
ところで、リーダーもストレスがたまると、「チームがいけてない」と部下に不平不満を感じることもあるかもしれません。ビル・ゲイツは「平凡なチームはどんなに上手くマネジメントしても、平凡な結果しか生まない」と発言していましたが、これを言い訳に、「チームの成果が上がらないのはメンバーがいけていないからだ」と責任転嫁をしたくなることもあるでしょう。
しかし長期的にみれば、「チームの実力≒リーダーの実力」になっていくことを肝に銘じておいた方がいいでしょう。部下は自分より無能なリーダーの下には決して長い時間おりませんし、有能すぎるリーダーにも、息切れしてしまって長い時間を共にすることができません。他人は自分の鏡ではありませんが、共に過ごしている部下の実力こそリーダーとしての自分の実力であり、責任を部下の無能さに求めるなどもってのほかであることでしょう。
謙虚でありつつ、高いスキルとセンスを身につけたリーダーになりたいですね。
それでは、また。